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貧乏クジの男

〜「愛のあかし」後日談〜

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第3章(最終章)


 や、や、や、焼きもちだとぉおおうぉおぉおおぉおおおーーーーーーーーーーーっ!?

 危うく怒りのあまり超化しそうになったオレは、必死で「平常心、平常心」と唱え始めた。
「ちょっと、どうしたのベジータ。目がすわってるわよ」
「う、うるさい! 誰が焼――――」
 否定しかけてハッと気づいた。妻と昔の男がしゃべっているのに焼きもち――――真実を知られるより、そう思わせておいた方がまだマシじゃないのか?

 いや、待て。早まるなオレ。よーく考えろ。落ち着いてよーく考えてから1か2かマシな方を選ぶんだ。

1.妻の昔の男が訪ねてきて、妻と楽しそうに談笑しているところを何度も邪魔する嫉妬深いオレ

2.他の男の子どもを産むと口走った妻の言葉を真に受けて、死に物狂いで昔の男のところへ止めに行ったみっともないオレ

 どっちだ……どっちがカッコ悪い……どっちが……。


 うおおおおおおおおおおおお!!! どっちも同じくらいカッコ悪いじゃねえかあぁあああぁぁあ!!!!


 だ、だが、落ち着け。これは究極の選択だ。どっちかひとつを選ばねばならん。両手で髪を掻きむしり、うなっているオレを、ブルマとヤムチャのやつは並んでぽかんと口を開けて見ていやがる。ち、ちくしょう。きさまらのせいなんだぞ。

 ついにオレは決断した。1だ。焼きもちの方がまだマシだ。2がバレるということは、ヤムチャの野郎を重力室でしごいていたのが、やつに余計なことをしゃべらせないためだったという、情けない事実までバレてしまうじゃないか。

 焼きもちか――――いいだろう。こんな時、地球の男なら何と言うんだ? ああそうだ、思い出した。

 いつか見たドラマの1シーンで俳優が演じていたように、体を斜に構え、左手を腰に当て、右手でヤムチャをピッと指差すと、渋い声でオレは言った。
「オレの女に手を出すな」

決まったぜ。

 ブルマとヤムチャの野郎は、あんぐりと口を開けたまま固まっている。どうした、オレのあまりのカッコよさに見とれたか。それはかまわんが、早くリアクションしてくれ。この姿勢でずっといるのはつらい。

 ヤムチャがブーッと吹き出した。あわてて両手で口をふさぎ、向こうを向いた。背中が小刻みに震えている。あとで覚えていやがれ。

「ベジータ……そんなにあたしのことを?」
 ブルマが両手を顎の下で組み合わせ、瞳をうるうるさせながら顔を寄せてきた。
「う……いや、あの、それは――――ま、まあ、そういうわけだ」

「うれしい!」そう言うと、ブルマはオレの首にかじりついてきた。「あんたがそんなこと言うなんて……思ってもみなかったわ」
 オレも思ってもみなかったぜ。
「孫くんの家だけじゃなく、ヤムチャのところにまであんたが押しかけたって聞いても信じられなかったけど、やっぱり嘘じゃなかったのね」

 な、なんだと!?

 反射的にヤムチャの方を見ると、やつは、自分は言ってないとばかりに、ぶんぶん首を振った。

「孫くんよ。プーアルに聞いたんだって。
『いやあ、ははははは。ベジータのやつ、ヤムチャのところにまで血相変えてすっ飛んでったらしいぞ』
って電話で言ってたわ」


 クワァクワァロットォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!

 オ、オレの苦労は、今までの血のにじむような努力はいったい……。

 目の前が真っ白になった。トレーニングウェアの尻が破れる音がする。この感触は……そうか、尻尾が生えてきやがったんだ。
 抱きついたままのブルマを押しのけ、オレは力の限り咆哮した。全身の細胞がもはや制御もかなわぬまま、いっせいにうごめき始める。ある一定の目標へ向かって。
「ベ、ベジータ!?」
「うわあぁああぁ」
 棒立ちになったブルマと腰を抜かしたヤムチャの目の前で、オレは超サイヤ人4に変身していた。

 ふははははは。見やがれカカロット! オレはついに……ついにきさまを追い抜いた。こ、これで……オレがナンバーワンだ……ぜ。

 急激な変化に体が耐えられなかったのか、あっという間に変身は解け、めまいがしてオレはそのまま倒れこんだ。

「ベジータ! ベジータ? どうしちゃったのよ。しっかりして!!」
 ブルマに揺さぶられながら、オレはいつまでも冷たい玄関ホールに横たわっていた。まぶたが降りる寸前に見た、ヤムチャの阿呆ヅラに向かって心の中でつぶやく。
 あとで必ずぶっ殺す……カカロットの野郎と一緒に……。

 でもそれまでは……
 このまま死んだフリをしていよう……。













 いつまで読んでいやがる! これでおしまいだぜ。


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