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愛はラマーズを超えて

〜「愛のあかし」後日談〜

第1章第2章第3章(最終章)


第2章

 その時、ちょうどエンドマークが出て、次の「すてきなパパになるために」が始まったので、オレはスイッチを切った。ブルマはまだ安らかな寝息を立てている。
 ふと見ると窓際の壁に沿って小さな本棚がある。付き添いの家族が持ち込んだものも含まれているのか、いろんな種類の雑誌やコミック本が置かれていた。
 オレはなんとなくその中の一冊を手に取った。ボクシングとかいう格闘技のマンガだった。大げさなグローブをはめ、殴りあうという格闘技だ。
 ふん、ヤワな地球人が考え付きそうなことじゃないか。殴るのは素手に限る。ちなみにオレがはめていた手袋は、ダメージを和らげるためのものじゃないぞ。
 単なる美意識だ。王子さまは白い手袋と決まっているからな。ふっふ……。

 コミックの内容は……不良少年がボクシングの才能に目覚め、最後には燃え尽きて真っ白な灰になるストーリーか。ふん、ありがちだな。
『脇を締め、やや内角を狙い、えぐり込むようにして打つべし』
 なるほど、基本を押さえてはいるな。だがまだまだだ。オレがアドバイスしてやってもいい。究極の闘い方ってやつをな。
 オレはコミックスの奥付にある出版社の所在地をベッドサイドにあったメモに控え、もう一枚のメモに、「きさまも超サイヤ人になれる! 『あしたのために』 その1」としたためた。
 ん? よく考えたら地球人は超サイヤ人になれるわけないな。――ふん。オレ様としたことがうかつだったぜ。

 その時、再び陣痛が襲ってきたらしく、ブルマが目覚めた。ひとしきり腰をもめのさすれのと大騒ぎしたあげく、波が引くとまた眠り始めた。
 オレは按摩あんま屋じゃねえーーー! くそったれーーーーー!!
 はっ、いかんいかん。危うくブルマを起こすところだったぜ(どきどき)。
 オレはまた本棚のところへ戻った。次の一冊を手にとり、パラパラとめくってみる。野球か。くだらん。――ん?
 オレの目はあるシーンに釘付けになった。主人公のガキが、バネで出来た器具で体中をがんじがらめにされている。
「大○ーグボール養成ギブスか……いいかもしれん」
 ブルマが無事出産したら作らせよう。この原理を応用した、メチャクチャに負荷のかかる、戦士養成用のやつをだ。もちろん、オレとトランクスと二人分な。
 ふっふ。血が騒ぐぜ。
 たかがマンガだと軽んじていたが、意外と有意義な発見があるものだ。特にこの野球マンガに出て来る頑固一徹の親父には、なぜか親近感が持てる。やはり父親というのはこうでないといかん。甘っちょろい地球人の中にも骨のあるやつが少しはいるようだな。

 コミックスを閉じ、オレが静かに笑っていると、戸口に突っ立ってこっちを不審な目で見ているトランクスと目が合った。手には大きな鞄をぶらさげている。
「入院用品を家に忘れてったから持ってきたんだけど」
「そうか」オレは息子の体をじろじろと見回しながら尋ねた。「ところで、おまえの胸囲はいくつだ?」
 そのとたん、トランクスのやつはオレが持っているコミックスの表紙とオレの顔を交互に見比べ、さーっと血の気が引いた顔で、ぶるぶる首を振ると、
「オ、オレ、明日もテストだから帰って勉強しないと」
と、鞄を放り出して一目散に逃げていった。
 ちっ、カンのいい野郎だぜ。

 入れ違いに医者が入って来た。
「よくお休みのようですね。休める時に少しでも体力を蓄えておくのはいいことです」
 そう言うと、やつはおもむろに眠っているブルマの両膝を立て、分娩着の裾に手をかけた。
「なっ、何をする気だ」
 はぁ? と、医者の野郎は軽く首を傾げてオレを振り向いたが、やめるどころか、裾を持ち上げ、もう片方の手をそそその中に――ぐああっ――あろうことか――差し入れ――どわぁあああぁああっ、許せん!!!

「やめろーーーーーーーーーっ!!」

 どかべきぐしゃ…………がたん……。

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