最終更新2002年12月27日
【読書日記バックナンバー】 2002年7月 2002年8月 2002年10月/11月
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中西輝政『国まさに滅びんとす〜英国史にみる日本の未来〜』文春文庫2002年,pp1〜343 |
「大英帝国」の「衰退」をレビューしたもの。1998年に単行本として出版されたが,加筆・修正され最近文庫本となった。英国が「なぜ衰退したか」ではなく,「どのように衰退したか」を描いている。大英帝国のピークは万国博覧会のあった1851年とされるが,それから米国が完全に覇権を握るまで100年かかったのは,「長くもたせた」英国の知恵によるという意識で書かれている。タイトルからわかるように,この「衰退先進国」の経験から日本も学ぶことができる,というのが筆者の主張である。 |
福士正博『環境保護とイギリス農業』日本経済評論社1995年,pp1〜260 |
英国農業と環境政策の関係についてまとめられた本。単に政策の変遷を追うのではなく,関連団体の動向(施策に対する賛否やその論拠など)を丹念に追っている。NFU(全国農業経営者連合)はもちろんのこと,環境団体・消費者団体などの多様なロビー団体と政策との関連を描き出している。その論点は,農業経営者が確保してきた「経営の自由」と環境規制が本質的に対立し,近年では「農業は例外」でなくなってきているというもの。英国の農業政策は,「環境」をキーワードに大きな転換を迎えつつあるということである。 |
R.ガブロン他『起業家社会〜イギリスの新規開業支援施策に学ぶ』同友館2000年,pp1〜193(忽那憲治他訳) |
英国における中小企業の新規開業をとりまく施策状況についてまとめられた本。副題に「〜に学ぶ」と書いてあるので,英国が何らかの点で先進的であるような印象を受けるが中身を読む限り,日本が特段遅れているという印象は受けない(施策については)。 |
水谷雅一『経営倫理学のすすめ』丸善ライブラリー1998年,pp1〜222 |
日本では「株式会社の農業参入」の是非が議論されている。農業にあまり関係のない人でも「構造改革特区での株式会社の農業参入」は新聞などで見かけたことがあるだろうし,農業関係者は,農水省での「農地制度に関する論点整理」などをご存知だろう。 |
辻悟一『イギリスの地域政策』世界思想社2001年,pp1〜304 |
1920年代から現在に至るまでの英国の地域政策の変遷がまとめられている。地域政策とは,英国国内に存在する「繁栄地域」と「問題地域」の深刻な経済格差を産業再配置により是正していくものである。例えば,失業問題が深刻な地域に新規産業を誘致し,雇用問題の改善を図るもの(もっとも,単なる「雇用対策」では短期的効果はあっても長期的な地域問題の解消につながらないと筆者も指摘している)である。 |
A.マクファーレン『イギリス個人主義の起源』南風社1997年,pp1〜419(酒田利夫訳) |
英国における,いわゆる「小農」社会から近代個人主義への転換は,中世から近代への転換期,つまりルネッサンスや宗教改革などが起点となり,核家族を重視する「個人主義的」家族制度は,資本主義・工業化および都市化によって引き起こされた,とするのが定説である。が,この本はこの定説を覆し,英国における個人主義は13世紀からすでに存在していた,と主張する。 英国の農業経営者は「独立」を好むと言われる。ただし,最近では「独立」が「孤独」へと作用し,農業経営者の自殺が増加している(40代の農業経営者の死因の1位は「事故死」,2位は「自殺」らしい)。ということで,この「独立」精神の基礎となる個人主義がいつ形成されたのか,という問題意識で読んだのだが,結論は「ずっと昔から存在していた。遅くとも13世紀には既にあった」というもので,要するに「起源はわからない」ということである。その点では不満なのだが,相続慣行のくだりで,中世期に「相続権」は必ずしも子供の絶対的権利ではなく,親が嫌だと思えば子供に相続させないこともできた(なぜならば「個人主義」だから)という指摘には驚いた。農業経営継承研究において相続問題は重要で,英国では親世代から子世代への経営継承が進まない「Farmer’s Boy」問題が指摘されているが,この根底にある「個人主義」の解明が必要という印象を持った。 |
H.J.パーキン『イギリス高等教育と専門職社会』玉川大学出版部1998年,pp1〜150 |
脱工業化社会のことを「知識社会」と呼んだりもするが,ここでは「専門職社会(Professional
Society)」と名づけ,これに大学がいかに貢献すべきか,というお話。大学教育が「英国病」を助長していた要素はないか,というレビューでもある。英国では過度の専門性により大学が「大学教師・研究者の再生産機構」になってしまったこと,大学のエリート主義が新たな「階層」を生み出し,「経営者」と「労働者」による深刻な相互不信を招いたこと,大学の人員削減の結果,優秀な頭脳が「国外流出」し,英国の大学教育の地盤低下を招いたこと,などが描き出されている。 日本でも大学改革が叫ばれているが,大学の社会的機能はいかにあるべきか,「研究」と「教育」のバランスをいかにとるべきか,それを踏まえどのような戦略をたて,組織を構築していくべきかを考えるときに,英国の事例を知ることができる本である。 |
『イギリスの条件不利地域政策とわが国中山間地域問題に関する研究』NIRA研究報告書1996年,pp1〜159 |
英国における条件不利地域政策の変遷と農業・農村への影響に関する考察,日本の中山間地域における地域振興の取り組み事例および自治体に求められる役割の2つの柱から,わが国の中山間地域へのインプリケーションを析出するという内容。出版時期が古く,中山間地域直接支払制度などが施行されてない段階での研究である。各章は,非常に明瞭にまとめられている。 不満が残るのは,「地域振興の取り組み」について,日本では市町村・農協・あるいは農業経営者自身などのイニシアティブを取る人間の「顔」が見えるのに対し,英国のそれは統計およびアンケート調査結果の引用で終わっており,地域振興の「顔」なり「ストーリー」が見えてこないことである(もっとも,引用元の研究は農業者へのインタビューを行っているようである)。 問題意識が異なる国の研究者が「分担」しつつ「共同」して研究を行うとこうなってしまう。このギャップを埋めるのは,よほどのディスカッションか「分担」しないで研究するかのどちらかしかないのではなかろうか。また1つ自分が英国にいる意義を見出した次第(笑)。 |