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キマイラの新しい城/殊能将之 |
2004年発表 講談社文庫 し68-5(講談社) |
やはり何といっても、“名探偵”であるはずの石動戯作が事件の謎解きを水城に丸投げしてしまうという、ミステリにあるまじき(?)超展開が強烈。しかも、最初は“名探偵資格の口答試験”に律儀に答えていたはずが、しまいには *
本書では二つの“密室殺人”が扱われていますが、実は一方は密室ではなく、もう一方は殺人ではないという、何とも人を喰った真相が用意されているのが作者らしいところです。もっとも、それぞれの事件が決してつまらないわけではなく、なかなか面白い工夫が凝らされていると思います。
まず現代の事件では、“秘密の抜け穴”ならぬ“公然の抜け穴”――非常口の存在には脱力を禁じ得ませんが、それに気づかせない作者のミスディレクションがなかなか秀逸。非常口など存在しない時代の、つまりは“本物の密室”での事件をまず前面に出しておき、さらに“コスプレ再現ドラマ”(苦笑)を通じて
一方過去の事件では、“コスプレ再現ドラマ”後の最初の謎解きの際の様子などから、〈稲妻卿〉の死の真相が見出されれば *
ところで、作中で展開されている“カー談義”(144頁〜146頁)の中では、 ちなみに、これもカーのファンにはいうまでもないことかもしれませんが、(以下伏せ字)348頁で石動が披露している“借り物の名推理”(ここまで)は、カーの(以下伏せ字)『ビロードの悪魔』そのまま(ここまで)です。 *
*1: ネタバレなしの感想ではアントニイ・バークリーのロジャー・シェリンガムを引き合いに出しましたが、そのシェリンガムもこのような事態は(性格的に)無理でしょう。
*2: このミスディレクションも、カーのある作品(以下伏せ字)『火よ燃えろ!』(ここまで)のものを発展させた形といえるように思います。 *3: このような趣向が盛り込まれた、三津田信三『作者不詳 ミステリ作家の読む本』を読んでいたこともあるかもしれませんが。 *4: この作品については、これまでそのような見方をしたことがなかったので、目から鱗でした。 2011.06.19読了 |
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