ミステリ&SF感想vol.3

2000.04.27
『UNKNOWN』 『夢魔のふる夜』 『消えたおじさん』 『天井の足跡』


UNKNOWN  古処誠二
 2000年発表 (講談社ノベルス)ネタバレ感想

[紹介]
 自衛隊のレーダー基地。こっそり侵入することなど不可能なはずの隊長室に、盗聴器が仕掛けられていた。基地の外部からは“二重の密室”となる隊長室を舞台にした事件に対し、防諜のエキスパート、防衛部調査班の朝香二尉が派遣される……。

[感想]

 事件は小粒で、派手などんでん返しなどもありませんが、謎自体はよくできていると思いますし、伏線もしっかりしています。「びっくり」路線に対する「きっちり」路線の本格ミステリとして、よくまとまっているのではないでしょうか。
 長編の割には小粒な事件ですが、長さは妥当でしょう。事件と直接関係ない描写が多いともいえますが、自衛隊という特殊な“世界”をきっちりと描くためには必要な量だと思います。
 盛り上がりに欠けるように感じられるところが難といえば難でしょうか。しかし、自衛隊という題材では、賛否いずれの立場にしても、主張が極端に偏って、過剰に熱くなりがちではないかと思います。その意味で、このような題材を扱いながら、淡々と物語が進んでいくところには好感が持てます。
 余談ですが、〈メフィスト賞に異変!?〉という帯には笑わせてもらいました。

2000.04.14読了  [古処誠二]



デッド・エンド  山田正紀
 1980年発表 (文春文庫284-1・入手困難

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夢魔のふる夜  水見 稜
 1983年発表 (ハヤカワ文庫JA229・入手困難

[紹介]
 17世紀のヨーロッパ。天文学者ヨハネス・ケプラーは、不思議な少女ウラニアに支えられながら、宇宙の真理を追究する。自らの理論を証明するため、チコ・ブラーエとガリレオに接近するケプラーだったが、ブラーエは最新鋭の観測機器が描き出す悪夢に苦しめられて謎の死を遂げ、ガリレオは宇宙の絶対者と契約を交わし、ケプラーの前に立ちはだかるのだった……。

[感想]

 コペルニクスを経て、ブラーエ、ガリレオ、ケプラーなど、歴史に残る天文学の巨人たちが生きていた、17世紀のヨーロッパという舞台設定が魅力的です。ロバート・J・ソウヤー『占星師アフサンの遠見鏡』を読んでもわかるように、天文学者というものは、多くの人々が日々の生活に追われる時代にあって、“世界”、そして“宇宙”という視点を持っていたほとんど唯一の存在です。人間を描くのではなく、“人類”を描くのがSFだとも言われますが、“世界”を描く/構築するのもSFの特徴だと思います。その意味で、やはり天文学者はSFの主人公としてうってつけでしょう。
 背景にあるSF的設定も魅力ですが、物語全体の主役となっているのは、登場人物の“想い”です。ハードでありながらも、豊かな叙情を感じさせる傑作です。

2000.04.21再読了  [水見 稜]



消えたおじさん  仁木悦子
 1961年発表 (講談社青い鳥文庫63-1・入手困難ネタバレ感想

[紹介]  なかよしのリュウおじさんが消えてしまった! 一人暮しのおじさんの家の中を調べてみると、柱に血のあとが残っていた。手がかりは謎の言葉“エムゴカロ”。次々とやってくる危機。“ぼく”こと明夫の、命がけの冒険が始まった。

[感想]

 乱歩賞作家、仁木悦子が書いた子供向け推理小説。冒険活劇がメインになってはいますが、細かい伏線もあり、推理部分も非常によくできています。“エムゴカロ”の謎など、子供向けであるだけにわかりやすい部分もありますが、逆に子供にとってちょうどいい程度にうまく設定してあると言うべきでしょう。
 “ぼく”が賢すぎるように感じられるところがやや難とも言えますが、やはり子供の頃に読んでみたかったと思わせられる傑作です。

2000.04.24読了  [仁木悦子]



天井の足跡 The Footprints on the Ceiling  クレイトン・ロースン
 1939年発表 (北見尚子訳 国書刊行会 世界探偵小説全集9)ネタバレ感想

[紹介]
 ロス・ハートは友人グレート・マーリニの誘いに乗って、ニューヨーク沖に浮かぶスケルトン島へ、交霊会の調査に行くことになった。ところが、マーリニのスーツケースを持って待ち合わせ場所へと向かう途中、スーツケースがすりかわってしまう。そして中には金貨がぎっしりと……。何者かに頭を殴られてスーツケースを奪われたロスだったが、さらにスケルトン島に到着した早々、無人のはずの屋敷で女の死体を発見する。そして現場の天井には謎の足跡が残されていた……。

[感想]

 交霊会、海賊の幽霊、難破船の財宝、そして“天井の足跡”など、非常に盛りだくさんですが、プロットを整理しきれず、ややゴタゴタした印象を受けます。が、中盤は財宝関連に焦点が絞られてくる分、意外にすっきりしてきます。
 “広場恐怖症のはずの被害者が、離れた屋敷で死んでいたのはなぜか?”という謎も面白いと思いますし、まずまずの作品でしょう。

2000.04.27読了  [クレイトン・ロースン]


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