刹那の夏
ネタバレ感想
2025年発表 (東京創元社)
2025.11.13読了 [七河迦南]
[紹介と感想]
『わたしの隣の王国』(『夢と魔法の国のリドル』)以来九年ぶりの新刊となる本書は、微妙に近しいテーマもうかがえるものの、ノンシリーズかつ連作ではない(*1)短編集――表題作「刹那の夏」は中編といってよさそうですが――で、殺人事件を扱った作品も含まれる(*2)など、これまでの著作とはやや違った雰囲気となっています。
本書単独でも十分に楽しめますが、本書の翌月に刊行された『わたしがいなくなった世界に』と併せて読むことで、より楽しめると思います。
個人的ベストはやはり「刹那の夏」。
- 「刹那の夏」
- 災害で甚大な被害を受けた土地に、ボランティアに訪れた女性二人組。宿の娘は彼女たちに、伯父の遺品であるミニチュアの文机と本が入れられたボトルを見せる。三人は、その本のめくることができない頁に記された言葉を見つけるため、伯父が少年時代の夏の追憶を綴ったノートをもとに、隠された秘密を探っていく……。
- 伯父の遺品の謎を発端として、遺されたノートをもとに“何があったのか”を探っていく作品。東京からやって来た少年の思い出が生き生きと描かれた前半から、「そこまで行ってしまうのか……」と思わずにはいられない謎解きに至る後半、そして「エピローグ」で明らかになる最後の真実と、全篇が非常に魅力的。謎と物語が美しく結びついた傑作です。
作者自身によるイメージソング「刹那の夏、永遠の海(feet.AI Merrow) - YouTube」も、併せてどうぞ。
- 「魔法のエプロン」
- 児童虐待の疑いありとの通報を受けて、市役所福祉課の谷口は小岩井保健師とともにその家を訪問する。母子家庭ということだったが、ちょうど母親は不在で、応対に出た小学生の長女は警戒心をあらわにする。様子を案じる谷口と小岩井が、後日再び訪問してみると……。
- 巧みなミスディレクションが光る一篇ですが、最後に明かされる真相そのものもさることながら、さらに容赦なく追い打ちをかけるような結末の見せ方が実に見事です。
- 「千夜行」
- 中学三年生の少年・理水{まさみ}は、叔母といとこ――朝乃と暖野{のんの}の女性二人が暮らす、亡くなった祖母の家で過ごすことになった。夫三人との間にそれぞれ娘をもうけた祖母は、長女・明里と確執があり、朝乃と暖野は明里の影に怯えていた。そして嵐の夜に……。
- ワーグナー(*3)とポオをモチーフにした作品で、次第に不穏な空気を漂わせながらも、何が起きているのかよくわからないまま進んでいく中、クライマックスに用意されている思わぬ一撃が強烈です。
これも作者によるイメージソング「千夜行(feet.AI Merrow) - YouTube」があります。
- 「わたしとわたしの妹」
- 小学一年生の宿題の日記。担任の冬美はその中で、宮田麻里亜の日記に目をとめる。家庭での生活が生き生きと描かれた、ほほえましい日記だった。家庭訪問の際にも幸せそうな家庭だと感じた冬美だったが、やがて麻里亜の家族が抱える秘密が浮かび上がってきて……。
- 担任教師の視点で描かれた、小学一年生の日記をめぐる物語。ある程度は予想できる(*4)……と思っていると意外な真相に足元をすくわれますが、それ以上に、予断を許さない終盤の展開と心に残る結末が見どころでしょう。
- 「地の涯て{ランズ・エンド}」
- 流れ着いた北の果ての町でひっそりと暮らし始めた“わたし”だったが、やがて町では通り魔殺人が発生し始める。そんな中、ふとしたことからアパートの隣人――同じく他人と関わらないように暮らす男性に興味を抱いた“わたし”は、その隣人とささやかな交流を始めるが……。
- スージー&ザ・バンシーズの曲(*5)から題名がとられるなど、1980年代の洋楽(*6)が大きくフィーチャーされた一篇。孤独な男女の密やかな交流が、連続通り魔殺人と思わぬ形で交錯することになりますが、ある意味で衝撃的な告白を経て、それでもなお、救いがあるように思われる結末が用意されているのが、作者らしいというべきかもしれません。
*1: (おそらく)一人だけ、「魔法のエプロン」と「わたしとわたしの妹」に共通する人物が登場していますが、内容の関連はありません。
*2: 「暗黒の海を漂う黄金の林檎」など、単著未収録の短編には殺人事件が扱われた作品もありましたが。
*3: 恥ずかしながら、ワーグナーは(少なくとも)ちゃんと聴いたことがなく(深水黎一郎『ジークフリートの剣』で知識を得た程度)、そちらに詳しければもっと深く理解できるところもあるのでしょうが……。
*4: 題名からしても、これは作者の想定内でしょう。
*5: 「Lands End - YouTube」。
*6: 曲名が出てくる順に、エコー&ザ・バニーメン「Silver - YouTube」、Xmal Deutschlandの「Xmal Deutschland - Polarlicht - YouTube」と「Xmal Deutschland - Orient (Music Video) - YouTube」、そしてアズテック・カメラ「knife - YouTube」。スージー&ザ・バンシーズも含めて、このあたりはあまり聴いていませんでしたが……(Xmal Deutschlandなどは名前も知りませんでした)。
*2: 「暗黒の海を漂う黄金の林檎」など、単著未収録の短編には殺人事件が扱われた作品もありましたが。
*3: 恥ずかしながら、ワーグナーは(少なくとも)ちゃんと聴いたことがなく(深水黎一郎『ジークフリートの剣』で知識を得た程度)、そちらに詳しければもっと深く理解できるところもあるのでしょうが……。
*4: 題名からしても、これは作者の想定内でしょう。
*5: 「Lands End - YouTube」。
*6: 曲名が出てくる順に、エコー&ザ・バニーメン「Silver - YouTube」、Xmal Deutschlandの「Xmal Deutschland - Polarlicht - YouTube」と「Xmal Deutschland - Orient (Music Video) - YouTube」、そしてアズテック・カメラ「knife - YouTube」。スージー&ザ・バンシーズも含めて、このあたりはあまり聴いていませんでしたが……(Xmal Deutschlandなどは名前も知りませんでした)。
2025.11.13読了 [七河迦南]