サイコトパス/山田正紀
2003年発表 (光文社)
“フィクションと現実”という主題に関して、本書では『ミステリ・オペラ』と逆方向のアプローチがなされています。『ミステリ・オペラ』が“探偵小説”というフィクションを通じて現実と比肩し得る“もう一つの現実”を構築しようというものであったのに対して、本書では複数の“現実”を複雑に交錯させることにより、徹底した“現実”の破壊が行われているのです。
そしてそれが、作中作と作中の“現実”を単に重ね合わせるのではなく、主人公のアイデンティティの崩壊によるものであるところがユニークです。女子高生・野添笙子を主役とした小説を書く“女子高生作家”新珠静香という設定に、静香の娘である晴香の存在が組み合わされることで、当初は明確だったはずの野添笙子・新珠静香・野副晴香という3人の関係が次第にねじれていくというその手法は、非常に効果的です。
最終的には、ある意味万能の装置である“サイコトパス”によってすべてをまとめてしまうという、少々ずるいようにも思える結末となっているのですが、特に初期のSF作品から読んできたファンにとっては、懐かしさのようなものを感じる部分もあるのではないでしょうか。
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読んでいる途中で、どこか似ていると思ってはいたものの、ストレートに“幻象機械”という言葉が登場してきたのにはニヤリとさせられました。作中ではまったく説明されていないのですが、いうまでもなく『幻象機械』のことです。未読の方は、ぜひ一度お読みになってみて下さい。
2003.12.17読了