蒼井上鷹 10


堂場警部補の挑戦


2010/03/03

 ミステリ界きってのひねくれ者として、一部読者の間には定着した蒼井上鷹さん。ぶっちゃけた話、絶対お薦めできる蒼井作品は、『九杯目には早すぎる』と『二枚舌は極楽へ行く』の2作品集のみ。個人的に好きな『ホームズのいない町』も、シャーロッキアン以外にはお薦めできない。長編に関しては、未だに代表作がない。

 それでも不思議と応援したくなるんだよねえ。蒼井作品の読者なら、この言葉にしにくい感覚がわかっていただけるだろう。さて、そんな蒼井さんの新刊は、創元推理文庫のオリジナルだという。連作短編集らしい。長編よりは期待できるか。

 東京創元社から蒼井さんの作品が刊行されるのは『ハンプティ・ダンプティは塀の中』以来である。『ハンプティ・ダンプティは塀の中』は、感想に書いた通り、とっても微妙な作品であった。僕はその原因を、連作短編集という括りに求めたのだった。

 そして………うーむ、第一話「堂場警部補とこぼれたミルク」は、斬新と言えなくもない。しかし、続く第二話「堂場巡査部長最大の事件」と、第三話「堂場刑事の多難な休日」は、こんがらがった末にもやもやしたまま終わるという、いつもの蒼井作品なのであった。どう贔屓目に見ても、第二話と第三話を褒めるのは難しい。

 また今回もか…。と、最後の書き下ろしの第四話「堂場VI/切 実」に取りかかる。すると、第四話こそ本作のキモであることがわかってくる。単体のミステリとしても最もよくできているし、何より第一話から第三話と意外な繋がりがあるのだ。

 なるほど、第一話から第三話の出来が今一つなのも納得である。出来がよかったらこんな手は使えない。最初から第四話までの構想があったのか、雑誌掲載された第三話までの評判がぱっとしなかったのを逆手に取ったのか。タイトルの『堂場警部補の挑戦』って、そういう意味だったのか。やっぱりあなた、ひねくれ者だわ。

 というわけで、今後も蒼井上鷹という作家を贔屓にしようと思ったのだった。もう一般受けは狙わなくていい。正直、今後も大ホームランは期待薄だろう。だが、ボテボテの内野安打でもいい。1作に1箇所でも、何かやらかしてくれれば。



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