伊坂幸太郎 23


PK


2012/03/16

 『マリアビートル』以来、久々の小説の新刊である。仙台市在住の伊坂さんは、『仙台ぐらし』で震災後の葛藤を綴っていたが、こうして新刊を手に取れたことを嬉しく思う。

 『PK』というタイトルから僕が即座に思い浮かぶのは、サッカーにおけるPK、ペナルティーキックである。実際、表題作「PK」は、ワールドカップ出場がかかったアジア予選の日本VSイラン戦で、日本代表の小津がPKを獲得した場面から始まる。

 とはいえ、「PK」「超人」「密使」の3編からなる本作は、サッカー小説ではない。PKのシーンから話はあちこちに飛ぶ。読み進むと、時系列のバラバラな事件や人物同士の繋がりが浮かび上がってくる。ああこれだよこれ。これが伊坂幸太郎なんだ。

 ある政治家が、あのPKをどうして小津が決めることができたのか、秘書官に調査を命じる。本人に聞こうにも、そのとき小津は亡くなっていた。意図のわからない行動に何だかわくわくする、伊坂作品にこんな感覚を抱くのはいつ以来だろう。

 ある作家も、小津のPKについて想像を巡らせていた。こんな突拍子もない説を思いつく彼は、極度の心配性だった。『仙台ぐらし』を読んでいれば、この作家のモデルが伊坂さんご本人なのは明白だろう。こうなると彼に情が入らざるを得ない。

 続く「超人」で、政治家は大臣になっていた。あれ、あの件はどうなった? そして特殊な能力を持つと主張する青年。どう考えても精神疾患が疑われるが、笑い流せず薄ら寒さを覚える。使命感に駆られた彼はついに行動を起こすが…。

 最後の「密使」は、SFのアンソロジーに収録された変り種。タイムトラベルものとだけ書いておくが、伊坂幸太郎にSFを書かせるとこうなる。よりによってこいつを世界の救世主に設定する発想は伊坂さんならでは。これが「彼」の原点だったのか?

 全体的なテイストは『魔王』に近いかな。解決しない謎が残る点でも似ている。繋がりは『ラッシュライフ』ほど作り込まれていないが、このくらい緩い繋がりの方がいいという気もする。大傑作ではないけれど、作家伊坂幸太郎の新たなスタートを祝して。



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