海堂 尊 10 | ||
ひかりの剣 |
本作は桜宮サーガの中でも異色中の異色、剣道をテーマにした青春小説である。後に『ジェネラル・ルージュ』の異名をとる東城大・速水晃一と、『ジーン・ワルツ』や『マドンナ・ヴェルデ』で曾根崎理恵の上司として登場する帝華大・清川吾郎。2人は学生時代、団体戦で争う医学部剣道部の医鷲旗大会で、鎬を削ってきた。
自らを天才と呼んではばからず、練習もサボってばかりの清川。熱意があるとは到底言えない清川だが、昨年の準決勝で、清川は速水に破れ、帝華大は東城大に敗退した。それは清川が医鷲旗大会で喫した唯一の黒星だった。
一方の速水は、講義はサボってばかりだが、剣道への熱意は人一倍である。東城大医学部剣道部の次代を担う責任感も強いが、真面目すぎる嫌いがある。好対照な両者が、直接対決で雌雄を決するまでを描いている。
ここで鍵を握るのが、実はあの高階である。高階は10年前の帝華大の医鷲旗大会優勝メンバーだった。ところが、高階はこの春から東城大に移ることになった。夏の医鷲旗大会を前にして、よりによってライバル校に。ならばとせこい手に出る清川。
清川のせこさ…というか強かさは大会本番でも発揮される。先鋒・次鋒・中堅・副将・大将がそれぞれ対戦して勝敗を決するが、清川は速水を強く意識していると思いきや、東城大に勝てばいいという考えらしく、秘密兵器を投入してくるし…。
清川の弟の志郎は東城大に入学し、兄への敵意をむき出しにする。帝華大、東城大それぞれのチーム事情。両校の前に極北大の水沢、崇徳館大の天童が立ちはだかる。それぞれチームを離れて特訓する清川と速水。盛り上がる要素には事欠かない。海堂さん自らが、大学時代に剣道に打ち込んでいただけに、迫真の描写はさすが。
剣道のシーンといえば万城目学さんの『鹿男あをによし』を思い出すが、剣道に特化した本作の方が、武道小説としての読み応えがある。本当に面白かった。しかし、別に桜宮サーガにする必要はなかったんじゃないか…と思ったのは僕だけだろうか。