海堂 尊 27


輝天炎上


2013/02/05

 『螺鈿迷宮』の続編であり、そして『ケルベロスの肖像』のアナザー・ストーリーだという。固定ファンの習性だけで手に取った本作だが…完全に「蛇足」だった。桜宮サーガに突っ込みたくなるのは毎度のことだが、本作は存在そのものに突っ込みたい。

 『螺鈿迷宮』の事件から1年。東城大医学部の天馬大吉は、公衆衛生学実習の課題で同級生(といっても彼は留年だが)の冷泉深雪と「日本の死因究明制度」を調査することなった。様々な関係者へ取材を重ねるうちに、彼は制度の矛盾に気づき始める。前半はこれまでも繰り返し述べられてきた主張の復習のようなもので、目新しい内容はない。

 後半に入ると黒幕が動き出すのだが、これまた目新しい内容はない。固定ファンなら過去作品は読んでいるだろうし、何より『ケルベロスの肖像』の結末はとっくに知っているので、ハラハラもドキドキもしない。前半はともかく、後半はアナザー・ストーリーと言いつつ『ケルベロスの肖像』の内容をなぞっているだけではないか?

 新たな事実がないことはない。あの作品やあの作品と繋がっているのは意外ではあった。そして、今明かされる『螺鈿迷宮』の真相、そして描かれなかった『ケルベロスの肖像』の顛末。………。桜宮サーガだけに、この程度では驚かない。それでも、そんな後出しじゃんけんありかよ!!! と言いたくもなる。『螺鈿迷宮』を書いた時点で決まっていたのか?

 同じ物語を別視点で描くのは『ジーン・ワルツ』と『マドンナ・ヴェルデ』という例があるが、これらの作品にはそれぞれ刊行する意義があったと思う。本作の刊行意義は大変悩ましい。『ケルベロスの肖像』の説明不足を補う意味はあるかもしれないが、それなら最初からきちんと記述すべきである。今頃「完結編」の補足をするのはいただけない。

 と、辛辣な意見しか出てこないのだが、出版社との契約上こんな水増し作品を出さざるを得なかったのか。最初から固定ファン向けに書かれているのだから、エンタメと割り切ればいいのだろうが、海堂尊さんを応援しているからこそ落胆は大きいのである。

 「完結」を謳いつつ「完結」が見えてこない桜宮サーガ。作家としても、医師としても、早く桜宮サーガの呪縛から開放されるのが海堂尊さんのためではないか。



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