北村 薫 13


朝霧


2008/11/16

 とっくに買っていたのだが、今頃になって読んでみた「円紫師匠と私」シリーズ第5作。作中で「私」は大学を卒業し、アルバイト先の出版社に就職する。

 何度も繰り返すが、このシリーズは苦手だ。だが、シリーズが進むにつれ、苦手な理由は変化した。『空飛ぶ馬』『夜の蝉』『秋の花』と続く初期は、とにかく清廉潔白、純粋無垢な作品世界が苦手だったが、『六の宮の姫君』では文学論の濃密さにお手上げだった。芥川龍之介や夏目漱石ら文豪の代表作すら、ろくに読んだことがないのである。

 そして本作。文学論はさらにパワーアップした。話題は小説に留まらず、俳句に歌舞伎に落語と多岐にわたる。歌舞伎は何度か観たし、落語をテーマにしたNHK連続テレビ小説『ちりとてちん』にはまったりもしたが、その程度では太刀打ちできない。

 本作収録の3編の初出は文藝春秋の「オール讀物」だが、単行本は東京創元社刊。他のシリーズ作品と合わせて東京創元社から出したのだろうが、謎の要素が弱すぎて創元「推理」文庫らしくない。半分はエッセイに近く、文藝春秋から出すべき内容である。

 解説の齋藤槇爾という方は、北村さんの博覧強記ぶりを絶賛している。この方くらい文学に精通していなければ面白さがわからないのだろう。でもね、解説の中で「この種のミステリー、いや小説」と言い直しているのはカチンときた。「私」を始め、作中の登場人物たちも、ミステリーなど眼中になさそうだ。でも、北村さんはミステリーも読むんだよね…。

 表題作「朝霧」に出てきた暗号だけはすごい。僕でも知っている歴史上のエピソードを、こんな形にアレンジするとは。表面的に知っているだけでは決して思いつかない。「数」の一致にも言われて初めて気がついたのだから。勉強になりました。

 それでも、謎解きがメインではないことに変わりはない。円紫師匠の出番は今回は少ない。この点を、円紫師匠に依存していた「私」の成長と考えることもできるが。



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