京極夏彦 33 | ||
西巷説百物語 |
メインシリーズが版元移籍やら何やらで先行き不透明な中、巷説百物語シリーズの最新刊が届けられた。『西巷説百物語』のタイトル通り、大坂を中心とした西国で起きた事件を描いている。元々、連中は全国各地で暗躍していたが。
本作の特徴を挙げると、第1に、中心人物が御行の又市ではない。又市とは兄弟分にして腐れ縁という、「靄船(もやぶね)の林蔵」が中心になって動く。
第2に、シリーズ第1作『巷説百物語』のように、基本的に1話完結のシンプルな構成である。『続巷説百物語』、『後巷説百物語』、『前巷説百物語』とシリーズが続くにつれ、背後に黒幕が存在したり先の話が後の伏線になっていたりと、構成が複雑化した。読み応えが増した反面、シリーズが持っていた醍醐味が薄れたことも否めない。
第3に、又市一派とは違い、林蔵一派はあまり凝った仕掛けはしない。多少の仕込みはあるものの、最後は林蔵が弁舌で畳み掛ける。京極道の憑き物落としに近いかもしれない。関西弁…いや、上方言葉の弁舌は迫力満点。そして決め台詞は、
「これで終いの金比羅さんや」
京極夏彦さんに原点回帰という意図はなかっただろうと思うが、シリーズ本来の魅力を堪能できた。ほぼパターンが同じであるため、読み進めると事件の真相に薄々感づくようになるのだが、その点は決してマイナスではない。なお、1編のみ予想を裏切られたが、もちろんどれかは書けない。なかなかに心憎い1編ではないか。
最後を飾る「野狐」には、又市や百介らも顔を出す。本作に描かれた事件が、『巷説百物語』に描かれた事件と同時期であることを示す記述も見られる。実際、林蔵の名は前作までにも登場しているようだが、もはや細かいところは忘れているし。
そういえば、第4に、あまり妖怪に関係なかったなあ。最後はどのように収拾させるのか、今後の展開からますます目が離せない。