宮部みゆき 25 | ||
堪忍箱 |
本作の文庫版解説を書いているのは、脚本家の金子成人氏。誰あろう、NHK金曜時代劇『茂七の事件簿 ふしぎ草紙』を手がけた方である。宮部みゆき原作であること以外チェックしていなかったに等しい僕は、名前だけでは誰だかわからなかった。
ドラマの原作となった『本所深川ふしぎ草紙』、『初ものがたり』、『幻色江戸ごよみ』は、いずれも連作短編集としての完成度が高い。宮部さんの三大時代物短編集と言っていいだろう。それに対し、本作はいわば寄せ集めの短編集であり、まとまりには欠ける。しかし、ただの人情物ではない宮部時代物の粋を堪能できる一冊だ。
偉人伝とか歴史上有名な人物たちとかはあまり書きたいと思わない。解説の中の金子さんの弁である。僕もまったく同感だ。戦国武将物とか幕末物には手が出ない。読めば面白いのかもしれないが、遠い存在すぎて感情移入はできないと思う。だからこそ、彼らは歴史に名を残しているんだろうけど。
例えば、「かどわかし」。良家のぼっちゃんの扱いには誰だって困るさ。「お墓の下まで」。誰だって秘密の一つや二つあるさ。墓の下まで持っていくほどじゃないにしろ…。「謀りごと」。誰だって貌(かお)を使い分けるさ。「てんびんばかり」。誰だって人の幸せには嫉妬するさ。心からの祝福なんてするもんか。そう、誰だって。
また、ホラーテイストの表題作「堪忍箱」と、「十六夜髑髏」。割り切れぬ謎が読者の想像力をくすぐる。ミステリーテイストの「敵持ち」。小坂井様がいい味を出している。そりゃ凄腕の剣客の方が絵になるんだろうけどさ。ラストのある一言ににやりとした。多彩なテイストの作品集は、宮部さんらしい「砂村新田」で幕となる。
打ってつけのネタがまだまだあるではないか。ドラマの第二弾やりませんか、宮部さん、金子さん、NHKさん。一応完結しているからだめかな…。