岡嶋二人 25


記録された殺人


2008/04/19

 岡嶋二人として5作目となる短編集である。ただし、『ちょっと探偵してみませんか』は推理パズル集であり、『三度目ならばABC』『なんでも屋大蔵でございます』は連作短編集だった。純然たる短編集としては『開けっぱなしの密室』以来となる。

 井上夢人さんのエッセイ集『おかしな二人』の中で、デビュー以来多忙を極めた岡嶋二人が、短編の執筆をやめるに至った経緯について触れられている。一言で言えば、共作という形態が短編には向いていなかったようだ。本作に収録された作品の初出はすべて初期である。単行本未収録の短編が、文庫版オリジナルの作品集としてまとめられた。

 本作の解説でも指摘されている通り、岡嶋二人は長編向きの作家だったと思う。短編の出来が悪いわけではないが、内容が盛りだくさんで込み入りすぎが目につく。僕が思うに、謎が謎を呼ぶ長編の執筆手法を、そのまま短編にも適用していたからではないか。岡嶋二人は妥協を知らなかった。本作収録の各編は、ただの寄せ集めではない。

 表題作「記録された殺人」。まんまと利用したはずが、証拠がしっかり残されていたという皮肉。デジタル時代にも十分通用する。メジャーになれないミュージシャンの悲哀、「バッド・チューニング」。音楽のプロでも犯罪のプロでもなかったね。最後はやや強引か。

 本作の一押しは「遅れてきた年賀状」。自分が同じ立場に立たされたらきっと笑えないが、笑うしかない。ネット時代に合わせてリメイクしてほしい。ドライブには気をつけて、「迷い道」。これまた、まんまと利用したはずが…という話。結末の皮肉も効いている。

 「密室の抜け穴」とはよく言ったもので、いわゆる密室トリックには必ず穴があるもの。このタイトルには二重の意味がある。小遣い稼ぎがとんだ結果に、「アウト・フォーカス」。岡嶋作品には写真の話が多いが、それぞれひねっているのはさすが。

 この作品集から、作家岡嶋二人の何たるかの一端が垣間見える。



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