瀬名秀明 18


希望


2011/07/15

 瀬名秀明さんの新刊は、ご本人曰く第1短編集である。『あしたのロボット』や『第九の日』は連作短編集だった。いわゆる寄せ集めの未収録作品集ではなく、近年の作品のみで構成された鮮度の高い作品集だ。それだけに、期待して読み始めたのだが…。

 うーむ、短編集を読み進めるのにこれほどまでに難儀したのは初めてだ。全7編、すべてあの『デカルトの密室』を彷彿とさせるのだ。知性とは? 生命とは? 哲学的問いかけが右から入って左から抜けていく。騙し騙し1編を読み終えても何も残らない。

 最初の方はまだいい。「魔法」「静かな恋の物語」はラブストーリーとして読めなくはない。ところが、続く「ロボ」に入ると…『シートン動物記』をモチーフにしているのはわかったが…。「彼」が再登場しているが、別に懐かしいとも思わない。

 「For a breath I tarry」。どこかで読んだような設定が出てくるが…。「鶫とひばり」。「ひばり」は「蓼」のくさかんむりを取ったものに「鳥」と書く。サン=テグジュペリなど実在の人物名が出てくるが、過去と未来がしっちゃかめっちゃか。

 「光の栞」。初出は『異形コレクション』シリーズなので、そのような読み方もできなくはない。100pを超える最後の表題作「希望」。薬学博士号を持つ瀬名さんによる辛辣な科学批判という側面は興味深いものの…僕には「希望」が見出せませんでした。解説で問題作と言われているくらいだから、僕に攻略できないのも無理はないのだ、きっと。

 その解説を書いている風野春樹氏は、ネット書評界では有名だった方で、僕も氏のサイトはよく見ていた。だから、瀬名さんとネットSF界の対立についても耳にはしていた。一旦は日本のSF界との決別まで宣言した瀬名さんが、至った境地とは。

 本作は、作家瀬名秀明による、これからは書きたいことしか書かないという宣言なのだろう。だからわかりにくいなどと文句を言うのは筋違いなのだ。今にして思えば、本当に誰にでもわかりやすい瀬名秀明作品は『パラサイト・イヴ』くらいではないか。

 風野氏曰く、日本SFの最前線に立つ瀬名秀明に、僕はついていけそうもない。



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