若竹七海 18


クール・キャンデー


2009/01/12

 祥伝社の400円文庫の1冊として刊行された本作が、『ヴィラ・マグノリアの殺人』『古書店アゼリアの死体』『猫島ハウスの騒動』『プラスマイナスゼロ』と続く葉崎市シリーズの1作であることについ最近まで気づかなかった。とっくに買っていたというのに。

 兄嫁の柚子さんは、ストーカーに襲われ自殺を図った。一命を取り留めたはずが、容体が急変し他界する。ほぼ同時刻に、ストーカーも変死していた。動機の面から、警察は良輔兄さんに殺人の容疑をかけている。中学生の渚は、兄の無実を証明するべく動き出す。

 …とまあ、コージーと呼ぶにはへビーすぎる設定じゃないですか、若竹さん。14歳の女の子にこんな夏休みを送らせるとは。中編じゃなかったら避けて通りたいところだ。しかし、渚の語り口があまりにもあっけらかんとしているので重さは感じない。

 とはいえ、狭い葉崎を噂は瞬く間に駆け巡る。同級生の心ない声に傷つきもする。だけど涙が出ちゃう、女の子だもん(古)。誤解が仲間とのすれ違いを生む。一応青春物らしい点もないことはない。というか、お前が悪いだろが篠塚。

 それはさて置き、兄の殺人容疑の方は…あの、若竹さん、地の文で思いきり嘘を書いているんですけど。ガチガチの本格というわけではないが、もう一つの事件の真相といい、そんなのありかい。何はともあれ、知略の限りを尽くして兄の容疑は無事晴れ…。

 ところが、最後に明かされた真相に呆然…。あなたは何てお人が悪い、若竹さん…。中編だからこそ、この結末に切れ味がある。同じ400円文庫の恩田陸さん著『puzzle』でも感じたことだが、中編ならではの作品に仕上げる手腕はさすが。

 若竹七海という作家の本質が凝縮された1作だと思うが、今では在庫僅少だろう。若竹ファンじゃなくても、見つけたら是非入手を。



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