若竹七海 22 | ||
バベル島 |
若竹七海さんはミステリ界で過小評価されている作家の一人だ。同時に、常に質は高いがこれぞ代表作という作品が思いつかない作家でもある。野球にたとえれば、ホームランバッターではなくアベレージヒッター。もちろん高打率はすごいことだが。
最もヒットしたと思われるデビュー作品集『ぼくのミステリな日常』は、実は若竹作品本来の作風ではない。若竹作品の本質とは、人間の悪意を冷徹に描き出す点にある。近年のコージー路線でもその点は同じ。若竹作品のユーモアとは黒い笑いなのだ。
そんな若竹さんの最新刊は、『船上にて』以来となる連作ではない短編集である。ここに集められた作品群は、若竹作品の本質から微妙に外れているように思う。解説でも指摘していたが、今まで単行本に未収録であった理由がわかる気がする。
ホラータッチの「のぞき梅」、「影」、「上下する地獄」や、サイコサスペンスタッチの「追いかけっこ」、「招き猫対密室」など、割り切れない謎が残る作品が多い。「招き猫対密室」は、東野圭吾さんの『ダイイング・アイ』を読んだ人の感想を聞いてみたい。
「樹の海」、「白い顔」、「ステイ」、「回来」は若竹さんらしくブラックさが光る。特に「白い顔」と「回来」がいい。「白い顔」の意外な結末にはやられた。すがりたい気持ちもわからなくはないが…。「回来」の皮肉な結末にはやられた。どちらにとっても想定の範囲外…。
『製造迷夢』や「黒い水滴」(『船上にて』収録)に登場した一条刑事が登場する点でファンには注目される「人柱」。一条の想像を確かめる術はない。悪い方へ悪い方へ想像力が働くのは刑事の性か。ところで美潮の再登場はないんですか。
表題作「バベル島」におけるあまりにも壮大であまりにも馬鹿馬鹿しい計画に唖然。カバーイラストの意味はこれか。一応葉村晶シリーズらしいが本人は登場しない。
短編ネタとしてはやや込み入った作品が多いが、若竹作品をよく知るファンなら新鮮さを感じられるだろう。しかし、初心者には薦めにくいかな。