山口雅也 07


キッド・ピストルズの慢心


2000/10/20

 シリーズ第4作。なぜか版元が講談社になった。今のところのシリーズ最新作だが、キッドとピンクの生い立ちや最初の事件が語られるなど、シリーズの入門編という触れ込みになっている。

 全5編の最初に収録された表題作「キッド・ピストルズの慢心」と、最後の「ピンク・ベラドンナの改心」は、タイトル通りキッドとピンクがそれぞれ語り部を務めている。キッドは自分が登場している既刊作品を「クソみたいな本」と言ったり、ピンクは「世界文学史上最低」と言ったり…。キッドに言わせれば、山口さんは「ゲス野郎」なんだとか。

 こういう自虐的な言い方は、逆に山口さんの本シリーズに対する自信の表れとも受け取れる。それともただのジョークなのか、読者の購読意欲をあおるつもりなのか。しかし、確かにキッドが言う通り、このシリーズは決してベストセラーとは言えないだろうけれど、わざわざ自分で貶めることもないだろうと思うのだが…。 

 全体としては…まあまあかな。『冒涜』や『妄想』と比較すると、ワンランク落ちると言わざるを得ない。『冒涜』と『妄想』が傑作であるだけに、僕個人としては刊行順に読むのをお勧めしたい。

 そんな中で興味深い一編を挙げると、「執事の血」だろう。執事なんていう肩書きを持つ人間を当然ながら僕は知らないが、この短編を読めば、貴族というものの本質が、執事というもののあるべき姿がわかるかも? 果たしてキッドたちは間に合ったのだろうか?

 ただでさえ多作とは言えない山口さんだが、今後キッド&ピンクの再登場はあるのだろうか。これで終わらせるにはあまりにも惜しいキャラクターだ。是非、再登場を望む。できれば長編で。本棚で長らく埃を被ったままのシリーズの残り一作、『13人目の探偵士』を早く読まないと…。



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