山口雅也 15 | ||
奇偶 |
綾辻行人が本格の西の横綱なら、山口雅也は東の横綱。などと僕は勝手に思っていた。西の横綱が7年ぶりの長編を発表した今年、東の横綱は実に13年ぶり、デビュー作以来の長編を発表した。いやがうえにも期待は高まる。
結論から言ってしまうと…途中から覚悟はしていたけど脱力しました。〇か×かはっきり決めるとしたら×。このネタで、このオチで、長編にするか? 延々600p以上付き合わされる読者の身にもなってみろっての。
作風としては、『ミステリーズ』や『マニアックス』に収録された実験的な作品群に通じるものがある。あれらの作品群は短編ならではの切れ味、一瞬の輝きがあった。言うなれば瞬間芸。短編だから許されるネタだし実験だったのだ。だが、どれだけ受けた瞬間芸でも場を繋ぐには限界がある。瞬間芸は瞬間芸だから面白い。
それでも、僕は少なくとも東の横綱山口雅也の「本気」を買う。東の横綱が西の横綱と同じくらい真摯に、本格という答えのないテーマに向き合っているのが痛いほど伝わってきたからだ。両横綱は割り切るということを知らない。
悩める両横綱はやがて究極形に至った。あくまで土俵内で勝負する西の横綱は『どんどん橋、落ちた』に。そして場外乱闘、凶器攻撃さえも厭わない東の横綱は本作『奇偶』に。どちらもそれぞれに突き詰めた結果であり、どちらのアプローチが正しいということはない。『奇偶』を世紀の大実験と受け止める人もいるだろう。
評価の是非はともかく、これで山口さんの新刊は当分望めない気がする。『どんどん橋、落ちた』どころではない、自縄自縛の問題作なのだから。作中の悩める作家に山口さんご自身が重なってしまう。ここまで悩むくらいなら、ここまで消耗するくらいなら、いっそのこと評論活動に専念してはどうかとさえ思う。
本作が通過点ならば、その先はいばらの道。東の横綱山口雅也はどこへ行く?