山口雅也 20


モンスターズ


2008/04/12

 山口雅也さんの新刊は、『ミステリーズ(Mysteries)』、『マニアックス(Maniacs)』に続く、実験的テイストを持つ《Mシリーズ》の第3弾とのことである。

 山口さんご自身が語る通り、『PLAY プレイ』もよく似たテイストを持つ作品集だったが、「遊戯」という縛りがある連作作品集であるため、特定のフォーマットに縛られない《Mシリーズ》からは一線を画すことにしたという。僕自身は一緒くたに考えていたが。

 本作は、タイトル通り幅広い意味での《モンスター》に関わる作品集とのこと。縛りがあるじゃないかとちょっと突っ込みたくなるが、そこは山口雅也、各編のジャンルは単純にホラーともミステリーとも言い切れず、これまで通り曲者揃いの作品集である。

 ドッペルゲンガーを山口流にアレンジした「もう一人の自分がもう一人」。一般に言われるドッペルゲンガーの特徴に捉われない柔軟性に拍手。「半熟卵にしてくれと探偵は言った」は…またこの手ですか。というか、モンスターに関係ない。そんなこと言ったら何でもモンスターの話だよ。「死人の車」は、誰でも知っている話に一ひねり効かせている。

 完全に山口さんの趣味に走っている「Jazzy」。ジャズに精通していないと辛いが、ビリー・ホリデイについては多少知っていたので、前半部はぞくっとした。"Strange Fruit"の意味を、あなたは知っていますか? 「箱の中の中」は、どちらかといえば『マニアックス』に収録すべきでは。結末の難解さが山口さんらしいといえばらしい。

 約120pと長い表題作「モンスターズ」。ナチス・ドイツがオカルト的研究に大真面目に取り組んでいたのは事実らしいが、それにしてもヒトラー、ヒムラー、ゲッペルスら実在の人物を登場させるのは何と大胆な。ただし、ナチス・ドイツという舞台設定は単に奇をてらったのではない。荒唐無稽な内容も、この時代背景だから受け入れられる。

 でも、結局言いたかったのは最後のこれ? 何だか騙されたような…。



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