山口雅也 25


謎の謎その他の謎


2012/09/05

 山口雅也さんの新刊は、《Mシリーズ》3作品『ミステリーズ(Mysteries)』、『マニアックス(Maniacs)』、『モンスターズ(Monsters)』の系譜に近い、実験的作品集だ。

 さて、今回の実験とは。「リドル・ストーリー」という言葉をご存知だろうか。僕は聞いたことくらいはあった。簡単に言うと、リドル・ストーリーとは作中の謎が解明されないまま終わる物語を指す。本作収録の全5編は、いずれも結末が描かれないのである。

 リドル・ストーリーの古典とされるフランク・R・ストックトン作「女か虎か(The Lady, or the Tiger)」。ある国の若者が王女と恋をし、処刑されることになった。2つの扉があり、一方の向こうには虎が、もう一方の向こうには美女がいる。若者はどちらかを選ばなければならない…。「異版 女か虎か」は、古典を山口流にアレンジした逸品だ。

 近未来SFっぽい「群れ」。リドル・ストーリーというより、映画の予告編だけ見せられたような感じだろうか。人間とは群れる動物だと思うけども。本作の一押し、「見知らぬカード」。いつの間にか財布に入っていたカード。人によって見せたときの反応が大きく異なる。ああ、一体何なんだよそのカード??? 気になって気になってしかたない。

 シリアルキラーものとリドル・ストーリーの合体「謎の連続殺人鬼リドル」。奇妙な誘拐犯の要求は、身代金ではなく謎々に答えること。正解なら人質は解放されるが、不正解なら殺される…。明らかな反則もあるが、作中の謎々の答えは示されない。最後の謎々は考えればわかるというが、たとえわかってもなお謎が残る「二段構え」が嫌らしい。

 最後のbonus track「私か分身(ドッペルゲンガー)か」は、『モンスターズ』に収録の「もう一人の自分がもう一人」を改作・改題したもの。『モンスターズ』を読んだとき、リドル・ストーリーではなくホラーと認識していた。角度を変えれば、なるほど本作に相応しい。

 誰か「謎の連続殺人鬼リドル」の謎々の答えを教えてください。



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