630とアルケミ−

1988年も半ばを過ぎると、G3も登場して、もうすっかり040の時代は終わっていました。バ−ジョンアップされるソフトからは「対応機種:68040を積んだマッキントッシュ」の文字が消え、パワ−PCネイティブじゃないソフトも、パワ−PCのエミュレ−ションの方が速くなってしまったので。

トホホ妖精は、そんな時代の流れを敏感に感じ取って、ぼくをそそのかしに現れました。

「その630、おそいよね。もう、040じゃあ遅いよね。対応ソフトも減ってるし。」

う、いやなことをいう!ぼくは冷や汗をかきながらも、630のデザインと、いままでしてきた数々の改造のノスタルジ−から抜けきれないので、弱々しいながらも反撃をしました。

「こいつは特別なマシンなんだ。どこにでもある7300みたいなマシンなんかと違って、そこら中に改造してくれオ−ラがでてて、世界に一台しかないんだ!」

「基板をパワ−PCのパフォ−マのにしちゃえば、もっと世界にない630になるよ。」

「603はエミュレ−トが040より遅いからダメだ。」

「それはLCIIIPDSスロットの基板のマシンが遅いからなんだよ。最近のPCI仕様のパフォ−マはべつものみたいに速いっていうよ。」

「ほんと?」

「それに、PCIなら拡張カ−ドが山ほどあるし、安いんだから。」

「ウム、たしかに...」

ぼくは資料をあさり始めました。資料を信じるならば、たしかにPCI仕様のいわゆる、「アルケミ−」基板の性能は、LCIIIPDS仕様のパフォ−マのものに較べておなじパワ−PC603とは思えない性能差を見せていました。

「グラフィック回路の性能がダンチだねえ。これだけでもおいしいな...」

LCIIIPDS仕様の基板にオンボ−ドでついてくる描画回路の性能は、はっきしいってもう最悪。昔はブイラムが1メガあったら17インチで32000色とかでて当たり前なのに、この基板では1メガ17インチで16色。こんなものを「アップル最高!」とか言って踊り狂うほどぼくは心が広くありませんし、狭くて結構だったので、見向きもしていませんでした。ところが、いつの間にか世に広まっていたアルケミ−基板では、描画回路性能も上がっていて17インチで32000色でます!これはおいしい。しかも、近々この基板用にG3アクセラレ−タがでるというじゃありませんか!

「G3の630...ううむ、寝てみたい!」

声が三船敏郎になってしまいました。

「よおおし!来週からアキバ月間じゃああ!」

織田信長征伐に向かう上杉謙信のごとく、勇み立ってアキバへ。アキバ各地のマック系ジャンク系お店を探しまくります。

「アルケミ−って、あっても、高いね。」

「しかも、ライザ−カ−ドというものがいるみたいじゃんか。バックパネルも別に用意しなきゃいけないみたいだし...ま、バックパネルくらい板金をハンドニブラで切り抜けばいいか。SE475を作ったときに較べれば、まだ楽かな」

幸いなことに、湘○通商にアルケミ−基板が、マ○サスにライザ−カ−ドがあったので購入。

「マックの改造本に、アルケミ−は3.3ボルトを供給しないとダメって書いてあったよ!」

それまでのマックの基板ヘは、電源から5ボルト、-5ボルト、12ボルト、-12ボルトと、キ−ボ−ドから電源オンする回路を動かすためのスタンドバイ電流を常に流すための5ボルトトリクルがあればよかったらしいのですが、高クロック高密度配線の時代になって、あんまりでかい電圧ではなんだというので、新たに3.3ボルトという電圧が電源から供給されるようになったのです。これはドスブイとかでも同じです。

じつは、マ○サスに5ボルトから3.3ボルトを取りだすためのアダプタ−を売っているときいていたのですが、売ってませんでした。ぼくにしてはめずらしく店員さんにきいてみたら、入荷したらお知らせしますということだったので、いつ入るかわからないようなものに縛られるのがイヤだったぼくは、それは断って、他のもので済まそうと思ったのでした。

「秋○と、○んせいで、なにか手に入るかも。」

ぼくはそれらのお店で二つの買い物をしました。

うまくいかなかった場合に備えて二種類。ひとつはHDD用5Vと12Vケーブルから任意の電圧を取りだすパーツ。もう一つは秋○電子で買った「安定化電源キット」。さらにメモリも買って、わくわくしながらお家に帰りました。

「さて、とりあえず、ただ組み込んで起動してみよう。」

何事も研究心が大切。630の筐体にアルケミ−基板をセットして起動してみました。

 「案の定起動しないね。」

起動音も鳴りません。回ったのはHDDと冷却ファンだけ。本体はウンともスンとも言いません。

「やっぱり3.3ボルトがいるんだねえ。」

LC630の電源から3.3Vを取りだす二種類の電源パーツキットを取りだしました。取りあえず、ハンダ付けがしたかったので「安定化電源キット」を組み上げました。

二つのキットを、ばらしてあった外付けハードディスクケースの電源につないで動作テスト。テスターで計ったら、ジャンク屋のパーツは表示が「3V」だったのにもかかわらず、ちゃんと3.3Vありました。それに比べてキットの方は入力電圧から一ボルトも下がりません!「なんだこりゃ!」というわけでLC630にはジャンク屋のパーツが組み込まれることに決定!基板への3.3V入力部(電源コネクタの上段の右から三つ目のケーブル。)に接続して、HDDの電源ラインから電気をとってきて完了!電源オン!... 回ったのはHDDと冷却ファンだけ。本体はウンともスンとも言いません。「ううむ。」ちょっと冷や汗。これだけでは動かないのだろうか。もう夜中なので、気合もなくなったのでばらばらにしたコンピューターをそのままにして寝ました。

トホホ妖精の夢を見ました。「電流じゃん?」妖精はさらりといいました。そうか...あのパーツは500ミリアンペアしかでないってあったからな... こうして勝利は次の日に持ち越されたのでした。 

次の日、会社では仕事もせずに「電源設計ハンドブック」とか読んでました。そこで気が付いたのが、「出力電圧は抵抗値に左右されます」という一文。  ぴぴーん!そうだ!秋月のキット、ジャンパーするの忘れた!あれじゃ、ゼロオームじゃなくて、無限大オームじゃん! 

帰ってすぐにジャンパーをハンダ付け。テスターで計ったらちゃんと電圧が変化したので3.3ボルトに調整。LC630に組み込みます。もとからある電源の5ボルトとグラウンドから直接電気を取ってきて秋月のキットにハンダ付け。 両面テープで空いたとこにくっつけてオン!「ブワーーン」起動音がしました!やったー!630がパフォーマ64××になった! とってもいい気分です。ベンチテストもとりました。ヤッパリ速い!

でも、電源が不安だったので、マック改造本にでていた電源増設というのをやりました。外付けHDDケ−スから電源を外し、630筐体のCDベイの下にある無駄な空間に、裏面をゴムシ−トで絶縁して貼り付けます。この電源の100ボルト供給線の片方はコンセントのコネクタにハンダ付け。もう片方はやはりコンセントのコネクタの逆側にハンダ付けしますが、途中で切って、電子式リレ−をはさんでおきます。リレ−は本体電源の5ボルトでつながるようにしてあるので、キ−ボ−ドで電源オンすると、自動的に増設した電源もオンになるようにしたのです。最後にこの電源のグラウンドと、本体のグラウンドをつないでおきます。増設した電源はHDD専用です。つまり、本体の電源はHDDからは解放されたわけです。かっこいい!二系統電源を持つパワ−630!

そして、1998年の12月、待ちに待った冬ボーがでました。

 

開発コ−ド名「ミンスク」! もういっかい630 840AV基板
恐怖!アメ車タブレット!