840基板でとほほ〜授業料〜

ラジオデパ−トの地下一階は、マックのジャンク系の人にはたまらないお店がそろっていました。あんまり買い物したことはないけど。でも、たまにトホホ妖精の不意討ちに遭って、思わぬ買い物をしてしまうことがあります。

「あいかわらずマザ−ボ−ド高いねえ。LC475なんかは中古の本体買ってもいっしょだよ。」

「ううむ、8100の基板とかちょっとほしいのにな。とうぶん下がんねえな。」

「下がる前に売れちゃうよね。」

などとひとりでぶつぶついいながら、その日もラジオデパ−ト地下一階のそのお店のショ−ケ−スをのぞいていたぼくでしたが、あいかわらずマザ−ボ−ドは高嶺の花。中古の本体が買えそうです。安いのは030マシンのとか、古いのばっか。一応、「使えるマシン」にしか興味のないぼくにはただのゴミです。みんなそう思ってるから安いんだろうけど。

ところが、その日はどうしたことか、ショ−ケ−スの中に、「クアドラ840AV」の基板がおいてあったのです。040最後のマシン。最後は30万円程度で投げ売りされたけど、30万で「投げ売り」なのが時代ですな。その840基板が、なんと、9000円という値段です!

「これはいいかも!」

「CPUはもってるものね。」

「あの、シムスロットの横の短いスロットって何用?」

「なんだろう...630だとあそこにはハンダ付け用のパタ−ンがあるだけだよね。」

68ピンの、得体のしれない実装パタ−ンは、かねがねぼくの心に引っかかる不思議のひとつでした。なんだろう。

「買って、調べちゃえば?」

お店の兄ちゃんは、ぼくが物をたのむと聞こえないふりをする怖い人でしたが、おじさんは商売人なので、ぼくみたいな変な客の注文を聞いてくれました。

「これください」

おじさんはにいちゃんにいって、840基板をとりださせました。にいちゃんは基板のCPUソケット当たりを指でぐるっと囲む仕草をして、「この辺のがないと使えませんよ。」といいました。今にして思えば、「この辺の」という表現に、「知ってる度テスト」のような、巧妙な罠が隠されていたのかもしれませんが、ぼくはてっきりCPUの事だと思ったので、「ああ、もってますよ、だいじょうぶ。」と答えました。

更になにか言おうとするにいちゃんをさえぎって、おじさんは「持ってるって言うからだいじょうぶだよ」といい、にいちゃんはむくれ、ぼくは金を払いました。

「電源もあるし、CPUはおはらいばこの630のがあるし、シムもあまってるし、よゆうだね。」

家に帰って、テ−ブルの上にマザ−ボ−ドを置き、電源をつなぎ、CPU とシムを挿し、キ−ボ−ドとモニタ−、HDDをつないで電源オン。

「かすっ。」

電源のファンが回ったきり。後はノ−リアクションです。何度やってもだめ。ハ−ドディスクも回るものの、そのまま動く様子がありません。

「ううん、くやしい」

「おまじない、いる?」

トホホ妖精のおまじないは、都合の悪い買い物のことを記憶から消し去るという、大変便利な魔法です。この魔法がなかったら、ぼくは放火常習犯になっていたかもしれません。

「じゃ、かけるよ〜。

840はうごかなかったけどよくきかないでかったおまえもわるいけどきゅうせんえんは

やすいからもっとひどいかいものをしたことをおもいだしなぐさめてあすのかてにせよ〜。

はい、おわり。」

9000円ならしょうがねえか、ぼくはこの基板を買ったことを忘れました。

でも、その後のとある日、マックの基板の写真がたくさんでてるマック雑誌別冊をながめていたら、840AVの基板も写真がでていました。シムスロットの脇に、もう少し短いスロット。そこにチップを実装したモジュ−ルが挿し込まれています。

「...ロムだって...」

マッキントッシュは、ドスブイで言うバイオスみたいなプログラムのデ−タを、起動時にロムから読み込みます。そのプログラムがそれからすべての立ち上げを指示するのですが、その部分がなきゃ、コンピュ−タは永遠に指示を待ってるということなのでしょう。630の基板にはロムが直付けされていたのです。

「なんでそんなものを別部品にするんじゃ!」

「将来のアップデ−トを見越したんだね。」

「ばかか!コンピュ−タなんて使い捨てじゃ!」

「630に永遠を望んだ人のことばとも思えないねえ。」

「ぎゃふん。」

こういった、「将来を見越したア−キテクチュア」が実を結んだ試しはありません。雑誌のレビュ−に「将来を見越したうんぬん」と書いてあったら、鼻で笑ってあげましょう。

で、ぼくの手元には、今、別の方面からタダで手に入れた840基板もあるのですが、そちらの基板では、もうロムは直付けです。でも、もうつかわねえや。へん。

 

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