「これください」 魔の店「湘○通商」で見つけたガゼル基板を買わざるをえなくなったぼくは、ガゼル基板を手に持って、おずおずと、カウンタ−に持ってゆきました。 「領収書の宛名はどうします?」 いつもなら、すんなり「上で」ですますのに、この日に限ってつっかえてしまいました。 「お客さん、個人なの?」 おやじの唐突な質問に、ぼくは心臓がちじみ上がりました。 「しまった!この店は素人お断りだったのか!でも、今までしっぽ出てなかったのに!」 ぼくは正直者です。小さいときにちょっとしたうそをついたらおやじさんに蹴り殺されかけたことがあるので、すっかり嘘のつけない体になってしまっているのです。 「は、はい」 ああ、せっかくのガゼル基板が... 「じゃあ、これはいらんな。」 おやじは領収書にはりかけた収入印紙をしまうと、かわりに400円を僕の手に戻しました。ああ、青色申告!正直者なおやじだったのね!僕は湘○通商がますます好きになってしまいました。 ついに最後の一線を越え、まだ1998年中だというのに貯金ゼロになってしまいました。 「でも、ガゼル基板は手に入ったからいいじゃない。225メガヘルツだって!早くかえってベンチテストしようよ!」 ぼくもトホホ妖精と同意見だったのでまっすぐ帰ることにしました。おまけでついてきたディムが何メガだかはやく知りたかったし。 「あ、でも、ラジオデパートの地下も見てってもいいかも!」 「え〜!またなんか変なもの見つけたら、牛丼食べれなくなっちゃうよ!」 ぼくは今日は吉野屋で夕食を済ませるつもりだったのです。 「へーきだよ!見るだけ!」 不思議なものです。三年前まで恐ろしくって近寄るのもいやだった電子部品の要塞、「秋葉原ラジオデパート」に、今ではなんの躊躇もなく入れてしまうぼく!人格改造セミナーに通ったみたいな変貌ぶりです! ラジオデパートの地下の、エスカレータで降りた突き当たりの今はないいかがわしい店は、当時看板こそ「T-○ONE」ですが、ただのジャンク屋さんでした。ぼくはここでロムの抜かれた840エーブイの基板をつかまされたことがあります。でも、だまされるほうが悪いのです。これからはロムがあるかどうか確かめるもんね! 「やった!、今日は何にもないよ!」 トホホ妖精はちょっとつまらなそうな顔をしました。彼女はきっと、怪しい電源とか、妙な基板があることを期待していたのでしょう。 「エレクトリックパーツにも何にもないよ!かえろう!」 素敵です!魔の地下迷宮、ラジオデパートB1Fから、一問も使わずに脱出することができたのです。やった!トホホ妖精に勝った!僕の胸は誇らしさでいっぱいでした! 油断は大敵なのに... エスカレータに乗って一階に上がったその時、ぼくの目に、一枚の商品札が飛び込んできました。 「ロジックテスター、最大直流20アンペア」 トホホ妖精はこの瞬間を逃しませんでした。 「ねえ!見てあれ!20アンペアまで計れるって!ふつーは500ミリアンペアまでだよ!たった二千円だって!かってって630の電源が3.3ボルトから何アンペア出すか計ろうよ!」 ぼくはこの誘惑に全く無防備でした!しかし、今日はぼくの頭の中の野郎のむさくるしい理性が弱々しく抵抗をしたのです! 「だめだ!今日は牛丼特盛りを食うんだ!」 トホホ妖精も必死です! 「おねがい!今日はお新香、我慢するから!」 彼女はぼくが牛丼屋に入ると、必ずお新香をひっぱりだすという困った癖を持っていました。本人はぼくが食べたいだろうと思ったとかいってますけど、どうも、お新香が大好物のようなのです。ぼくはそれを聞いて、ちょっと彼女がかわいそうになりました。財布には三千円残っていたんです。 「いいよ、お新香くらい買うお金はあるよ。」 テスターを買ってしまいました。テスター屋のおやじも、ぼくに領収証を切ってくれました。 御徒町近くの吉野屋で牛丼を食べて帰りました。お新香つきで。 少ない装備を630と分け合ってしまったために、6400はCDもフロッピもない32メガメモリのシングルタスク(一遍に一つしかアプリが立ち上がんない)間抜けなG3マシンとなってしまいました。シーゲートの2ギガの普通スカジーHDDがのっています。でも主力マシンです。ぼくたちは1999年までの一週間を何とか餓死せずに乗り切ることができたのです。なんで電源がついただけのケースなのに、あんなに重いんでしょ?でも、パソコンの自作って楽しいっすよね! |
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