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エスパーニャ道中記 こぼれ話
Vol.5(第21話〜)
第21話 La Novia(ラ ノビア) 「白く輝く花嫁衣裳に・・・」という出だしで始まるペギー葉山さんの歌のタイトルは確か“ラ ノビア”でした。ノビアはスペイン語で“恋人”の女性形。男性形はノビオです。夫婦になるまではノビオとノビアですから結婚式当日の花嫁さんもノビアです。ジューン・ブライド(6月の花嫁)とかで、最近は日本でも6月に結婚式をあげるカップルが増えているようですが、このジューン・ブライドの意味がヨーロッパに出掛けて、やっと解りました。日本では6月はうっとうしい梅雨の季節ですが、日本より緯度の高いヨーロッパは5月、6月が丁度花盛り。日本の北海道のような季節です。花嫁を飾る花の季節。鳥が鳴き、木々の緑も鮮やかで世界中が生の喜びに溢れているような、この季節に結婚式をあげるのがヨーロッパの乙女達の夢なのもうなずけます。スペインの野原にもアマポーラ(ひなげし)が赤いじゅうたんを敷き詰めたように咲きマルガリータ(マーガレット)の白い花も咲き乱れます。 スペインでジューン・ブライドというような呼び方や習慣があるかどうか知りませんが、やはりこの季節に何組かの結婚式に出くわしました。といっても教会での式や披露宴を見たわけでなく記念写真の撮影現場を目撃したのです。 いったいにスペイン人は写真が好きで家に呼ばれると必ずアルバムや壁に飾った写真を見せられます。そのなかでも圧巻はやはり結婚式の写真です。専門の写真屋さんに頼んで立派なアルバムを作ります。そして、そのなかには必ずといっていい程、その土地の代表的な風景をバックに撮った写真があります。ですから観光客である我々も新郎新婦の記念撮影現場にぶつかることが良くあります。 町の周囲を堅固な塁壁に囲まれたアビラの花嫁さんはパラドールの中庭の城壁の前での撮影の後で、暑いといってバルでビールを飲んでいましたので、ちょっと我々のカメラにもおさまってもらいました。 ガリシア地方のコンバロという村の花嫁さんは、この地方独特の高床式の石造りの蔵の前での撮影が終わって帰り際、ブーケの白いバラを1本抜き取ってスケッチをしていた主人に「トメ!(受け取って)」と言って渡しました。「スケッチの邪魔をしてゴメンナサイ。」というようなつもりだったのでしょうが、もらった方は思いがけないプレゼントにビックリしたのか「グラシアス!(ありがとう)]というお礼の言葉も忘れて、しばしば花嫁さんの顔をボーッとみつめておりました。 第22話 Estanco(エスタンコ) 初めてスペインに行った時、バルセローナの駅で日本へ絵葉書を出そうとセージョ(切手)を売っている所を捜し回りました。何軒かの売店で「ノー」と言われて途方にくれている時、主人が何かの機械の上で切手を貼っている男の人を見つけました。主人曰く「アレは切手の自動販売機に違いない」というわけで当時スペイン語がまったく話せなかった我々は、その男の人をジーッと見つめていました。我々の鋭い視線を感じたのか、彼が「コレを使うのか?」というような身振りをして何か言いますので「そうだ」とうなずくと、場所をあけてくれました。切手の自動販売機にしては金額が一種類しかないのでヘンだなぁと思いましたが、とにかく書いてある料金を入れボタンを押してみると、ピカッ!と光って何も書いていない白い紙が一枚出てきました。そうなんです。ナントこの機械はコピー機だったのです! 切手は郵便局(コレオス)以外でもタバコの看板の出ているエスタンコという店で売っています。(ただし全てのエスタンコで切手を売っているというわけでもなさそうで、なかには切手を置いてない店もいくつかありました)普通は国王カルロスの肖像写真が印刷されており金額によって色が違っています。 マドリーのマジョール広場では日曜日になると、切手市が開かれ、切手やコイン、勲章などを売る大小の露天が軒を並べます。スペインにはコレクターがたくさんいるらしく、毎週やっているのに、いつも大勢の人で賑わっています。我々も各地で知り合ったスペイン人にお土産代わりに日本の切手をプレゼントしたのですが、大変喜ばれました。 我々は日本の感覚で未使用の切手を持っていったのですが、むこうでは「スタンプの押してあるのはないか」と、よく言われました。スペインではスタンプのある方が価値が高いのでしょうか? エスタンコで売っているもう一つのモノ、タバコ。これはスペイン語でもタバコです。というよりスペイン語が日本語になったというべきでしょうか。日本ではタバコはどこで買っても同じ値段ですが、スペインではエスタンコが一番安く、バルや街角で売っているものは手数料がついて少し高くなります。 街角で売っているタバコは売っている時間によっても値段が違い、夜中は高くなるという具合。そして一箱単位でなく一本ずつバラで買うことが出来ますが、これも少し割高になります。しかし、スペインのこと、バル同様、タバコにもなじみ客値段というのが、きっとあるに違いありません。 第23話 No Fnma(ノー フマ) 今回は前回に引き続きタバコのお話です。アメリカ大陸から、もたらされたタバコはスペインからヨーロッパ各地へ、伝わっていったせいでしょうかスペイン人は、とてもタバコ好きのようです。紙巻タバコにはルビオとネグロの二種類がありルビオはフィルター付きの軽いタバコ、ネグロは強いタバコだとききました。 ネグロのなかでも最もポピュラーなのが青いパッケージの“ルガドス”というタバコです。値段が安いせいもあるでしょうがスペイン人の間では人気があるようです。初めてのスペイン旅行の時はマドリーやバルセローナ等、大きな町ばかりを回りましたが、ただ一ヶ所、地中海に半島のように突き出た小さな漁村ペニスコラに行きました。ギリシャ時代からの古い村で半島の周りを城壁で囲み、その中に城と教会を中心に集落が形成されています。この村のバルで主人が店のマスターに、この店で買ったケント(前にも書きましたが、スペインではタバコが安く空港の免税店で買うような値段なので、主人はケントやマルボールなどを喜んで買っていました。)を「ポル ファボール(どうぞ)」とすすめたところ「ノー」という返事。そしてルガドスを取り出して「俺はこれしか吸わない」と言って、反対に主人にルガドスをすすめました。吸った主人の感想では、大分強くて辛いということでした。 最近、禁煙権について、よく耳にしますが、表題の“ノー フマ”とはスペイン語で禁煙という意味です。 しかし、ヨーロッパ諸国の中で禁煙に関する限りスペインは後進国です。デパートでエスカレーターに乗りながらタバコをふかしている人は、たくさん見かけますし、時にはデパートの女店員さんが売り場でタバコを吸っていることもありました。バスの中の禁煙シートもあまり守られていないようでした。最近、スペイン政府は公共の建物での喫煙を禁止したというニュースを聞きましたが、果たしてどれだけ守られているのか疑問です。 ちなみに灰皿はセニセロ。火はフエゴ。セニセロは皆さんなくても平気。道路やバルの床が灰皿代わりです。建物のほとんどが石造りなので火事が少ないからでしょうか。 スペインの街角でよく「火を貸してくれ」と声をかけられました。たいてい口にタバコをくわえて、手でライターをつける格好をして「フエゴ ポル ファボール」と言いますからすぐにわかります。マドリーはソル広場近くのデパートの前でベンチに腰をかけタバコを吸っていた主人に7,8歳のジプシーの男の子が、こう声をかけました。火をつけてやった主人に、彼はウインクをしながらタバコを持った片手をあげ、ひと言「ダンケシェーン」と言って立ち去っていきました。そのあまりに堂に入った態度に二人とも、しばし唖然として顔を見合わせておりました。 第24話 Puente(プエンテ) ゴールデン・ウィークいかがお過ごしですか?本日のテーマはゴールデン・ウィークにちなんでプエンテ(橋)です。以前にセゴビアのローマ水道橋を紹介しましたが、この他にもサラマンカのローマ橋等、スペインには古い石のローマ橋がいくつか残っています。しかし、今回は河にかかる橋ではなくて休日と休日の間にかかる橋のお話です。 日本でも5月4日が休みになったようにスペインでは、休日と休日にはさまれた日はプエンテといって休みになります。スペインでは祭日のことをフィエスタといって、10月12日のコロンブスの新大陸発見の日以外は、全てキリスト教の祭日のようです。東京のスペイン語学校の先生に「日本の天皇誕生日のようにスペインでは国王の誕生日は休日にならないのか?」と尋ねたところ「スペイン人は国王の誕生日を休日にするなら自分の誕生日も休日にしろ!と言うだろう。」との返事でした。 以前には似たような休日があったそうです。というのは、スペイン人の名前は、ほとんどがキリスト教の聖人の名をもらいます。例えば女性の名前でもっともポピュラーなのがマリアですが、日本で有名なカルメンもマリア・カルメンとかマリア・デル・カルメンが正式のようです。この他にもマリア・デル・ピラール(柱のマリア)とかマリア・デル・マル(海のマリア)とか色々あります。マリア・ホセは女性の名でホセ・マリアになると男性名だそうです。男性の方は、いくつかありますがヘスース(イエス)というのもあってビックリしました。 話を元に戻しますと、それぞれの聖人の祭日が決まっていて、以前は、その聖人の日は同じ名前の人も休みになったという話でした。もうこの週間はなくなったようですが町や村に、それぞれの聖人がありますのでスペインでは一年中どこかでお祭りが行われているといってもいいほどです。 スペインを旅行される方は事前に祭日を調べておかれた方が良いと思います。各地のお祭りを楽しめるということもありますが、この日は銀行がお休みでトラベラーズチェックが換金出来ないなんて事になりかねませんから・・・。 第25話 Gato(ガト) 今回はガト(ネコ)に、まつわるお話です。以前、名古屋にお住まいの『えすぱーにゃ道中記』の読者の方から、お便りを頂きました。新婚旅行でスペインに行かれ地中海のリゾート地ネルハで我々と同じホテルに泊まられたそうです。その宿のネコに非常に気に入られて部屋に遊びに来るネコに“みー子”と名前を付けてかわいがられたとかで写真も送っていただきました。この“みー子(本名はわかりません)”は我々も顔なじみ。ホテルのマダムが大変かわいがっていたネコでロビーのソファでよく昼寝をしていました。 このホテルの食堂は広いテラスがついていて海に沈む夕日を眺めながらする食事は最高に贅沢な気分でした。食事の時間になると“みー子”は食堂にやってきてテーブルの下を歩き回ります。おとなしいネコで別に料理を欲しがるという事もないので他の客もかわいがって“みー子”に、おすそわけをしていました。私達はイワシをやったのですが知らん振りで、隣のテーブルに行ってしまいました。次に白身の魚を与えたところ、これは美味しそうに食べました。「ネルハのネコは贅沢だなァ」と二人して、みょうに感心をして“みー子”の食事をながめておりました。 ネルハでの二日目の夕方、食事前に部屋のテラスで人のいなくなった浜辺を眺めていると、たくさんのネコが集まって来ました。ネコの夕涼みかと思ってみていると漁師さんの船が帰ってきました。子供達もやってきて船を浜に引き上げて魚を下ろし始めると、寝そべっていたネコが船のまわりに集まって来ます。そして漁師さんが小さい魚をネコの方に投げてやると今まで静かだったネコ達が一変して大騒ぎ、魚の取り合いが始まりました。いち早く大きなのをくわえて岩陰に走り食べはじめるネコ、小さいネコをおどして横取りをするのもいます。みんなが、それぞれ魚をくわえて散っていった後に2,3匹エサに、ありつけなかったのがウロウロしていましたが魚の入ったカゴに近づいていくネコはいませんでした。 漁師さん達が魚を運び始めると残っていたネコも去っていきました。我々も食事に行こうと部屋に入りかけたとたん「ギャー!」というネコの叫び。ビックリしてのぞくと、どうやら遅れて来たトンマなネコが魚のカゴに近づいて漁師さんに思い切りドヤされた様子。こうしてネコと人間との間に共存のルールが作られていくようです。こうした光景に我々は、この旅行中、何度か出会いました。スペイン人は動物や自然と仲良く暮らすことが上手な国民だと思います。 |