今日もぶつぶつ〜番外編〜
「カナブン―果てしなき戦いの日々―」



2000年3月10日番外編「脳神経外科体験記」

2000年3月31日番外編「ビースト・メタルス病の治療」

2000年6月24日番外編「濃い夜」

2000年9月9日

世の中には、多数の「恐怖症」が存在します。
有名なところでは、「高所恐怖症」「閉所恐怖症」「暗所恐怖症」「先端恐怖症」等々・・・。
ここまでマイナーではなくても、周囲を見渡せば、「なんで?」と言いたくなるようなものに恐怖感を示す人が一人が二人はいるでしょう。
たとえば犬が恐い人。でっかいドーベルマンや顔が見るからに恐いブルドッグならいざ知らず、かわいい子犬にまで恐怖感を示します。
食べ物なんかも多いです。グリンピース、ピーマン、セロリ、パセリ・・・見るもの嫌!って感じで、皿の上に乗っかっていると、野菜相手に体を引いて思わず逃げ出しそうになっている人だってごくごくたま〜にならいるはずです。
ところで、「犬嫌い」と「犬恐怖症」これは全く別物です。
なぜなら犬の嫌いな人は、「うるさい!」とか「毛が暑苦しい!」とか「動物はとにかく嫌い!」とかいう理由で嫌いになるため、必ずしも恐がっているとは限りません。
ところが、「犬恐怖症」の人は違います。うるさかろうが毛むくじゃらだおうが問題ではないのです。ただ、犬が恐いのです。
もちろん、「噛まれる」とか「襲いかかられる」とか、何らかの理由があるのかもしれません。
なんにせよ、好き嫌い以前の問題なのです。嫌いなだけなら、恐いとは限らない・・・でも恐怖症は、ひたすら恐いのです。
犬が静かになろうが毛を刈ろうが剥製になろうが、無条件に恐いのです。
さて、何が言いたいかというと・・・・

私は虫が嫌いだ・・・

虫と言っても、特に羽根のある虫が嫌いです。飛ぶのは嫌なのです。
そうしう意味では、たとえ虫ではなくても飛ぶ生物は嫌いです。
鳥・・・・鳥も嫌いだなぁ・・・
あ、間違えました、嫌いじゃなくて、恐いのです。
虫でも、蜘蛛とか蟻とか・・・一応平面状を異動するやつは大丈夫なのです。
でも、飛ばれると空間を移動しますからね、行動の予想がつかなくて恐い・・・。
ちなみに、飛ばなくても跳ねるやつも恐いです。バッタとかカマキリとか・・・。
そう、私は飛ぶ/跳ぶ生物恐怖症なのです。
なのに、そんな私を襲った悲劇・・・。
以前、カナブンが部屋に飛び込んだ時の奮闘振りを書いたことがあります。
あの時もかなり苦心して戦い、無事カナブンを追い出して一件落着したはずだったのですが・・・おととい、、再び奴は奇襲をかけてきました。
それは文字通り奇襲でした。
なぜなら私は、前回カナブンが飛びこんできた時に、これ以上入ってこられちゃやっとれん!とばかりに網戸のついてない窓を全部閉めたのです。
たかが小さな窓二つ・・・でも、かなり暑くなりました。
それでも、カナブンに入って欲しくないがためにその暑さを我慢していたのです。
なのに・・・なのに・・・一体どこから入ってきたのか!?
最初、奴はパソコンに向かっている私の背後から、ブィ〜ンという羽音と共に突進してきて、パソコンの画面に激突し、どこかに跳ね飛ばされました。
「どこから入ってきたんだ!?」
私の頭の中はパニックです。だって、どこにも奴が入ってこれる場所なんてないのです。まさか壁をすり抜けたのか、窓を割ったのか・・・。
なんにせよ、私は神経の全てをカナブンの気配を読み取ることに集中させ、耳を澄ましました。
ところが何の音も聞こえません。
人間の集中力には限界があるのです。そんなに長い間、奴の気配を探ってられません。
「もういいや・・・多分どこかにじっとしてるはず・・・。」
そう思い、気を緩めた瞬間・・・
奴は・・・奴は〜〜〜〜〜〜!!!
ものすごい勢いで部屋の中を飛び回り始めたんです〜〜〜〜!!
多分、電球の周りをぐるぐる回ってるつもりなのでしょう。
でも、電球というものは通常部屋のどまんなかにあります。
その周りを、色んな長さの半径で、しかも上下にまで飛び回れれば、部屋全体を縦横無尽に飛び回っているのと同じことです。
私は思わず悲鳴を挙げました。
飛ぶ/跳ぶ生物恐怖症の人間にとって、これはものすごく恐ろしいことです。
あまりの恐ろしさに部屋の隅で硬直している私のそばも、時々カナブンはものすごいスピードで飛んでいきます。
「止めて〜!来ないで〜!あっち行って〜!(号泣)」
よく、サスペンスドラマで、犯人に殺されそうになった人が叫んでますね。
あんなんだと思っていただければ目安になります。
夜中だったので上の階の人は寝ていたはずなのですが、足音が聞こえます。
私の声で起きたのでしょうか?でも、起きたのなら見に来てくれてもいいはずです。
とはいえたとえ来てくれても私はドアを開ける事ができません。なぜなら私が硬直しているのは玄関に続くドアとは反対方向だから・・・どまんなかでカナブンが飛び回っているので、身動きが取れません。
「なんで・・・なんで入ってきたのよ・・・来るな〜!やめて〜!・・・お願いだから飛ばないで〜〜〜(涙涙)」
あまりに恐ろしいので押入の真横でしゃがみこんで耳をふさいで叫んでいたのですが、カナブンはいつまでも飛びつづけます。
「押入に入ろうか・・・でも、奴が入ってきたら逃げ場がない・・・机の下・・・だ、だめだ、やっぱり襲われたら逃げ場がなくなる・・・。」
もうひたすら、奴が動かなくなってくれるのを待つしかありません。
「カナブンの何が怖いの?」
なんていう人がいるかもしれません。が、全てが恐いんですって!
だって、めっちゃ大きいんですよ〜人の親指くらいあるんだよ〜そいつがものすごいスピードで部屋中飛んでるんだよ〜音もものすごいんだよ〜どっから入って来たか分からないんだよ〜
もし親指大の石が部屋の中に飛んできたら恐いですよね?動けなくなりますよね?私にとってカナブンは、親指大の石が飛んできた時の500倍恐いものなんです〜。
震えている私の前で、電話が鳴り始めました。でも、出ることはできません。
なぜなら電話機も部屋の向こう側だから。取るためには、部屋の真ん中を横切らなければならないのです。
・・・そんなの不可能・・・。そして電話は切れてしまいました。
一体どれくらいの間、そうしていたことでしょう。
やっと、カナブンが動きを止めてくれました。
私はそ〜っと立ちあがり、そばにあった水を掴み、部屋を出ました。
とりあえず部屋を出てドアを閉めてしまえば襲いかかってくることはありません。
緊急避難です。
・・・・・・カナブンに追われて廊下に出てきた私って一体・・・。
でも、しょうがありません。今日は白旗です。とうとう、カナブンに部屋を乗っ取られてしまったのです・・・。
「畜生〜畜生〜(涙)」
領土の一部を占領された私には、布団がありません。でも幸い、近くにタンスがあります。
仕方ないのでタンスから適当に服を引っ張り出して寝ることにしました。
とはいえ服を引いただけじゃ廊下は固いです。おまけにいくら夏とは言え寒いです。
でも、敗北者だから仕方ないのです。
「覚えてろ〜(クスン)明日こそ、反撃してやる〜(クスン)てめえの天下は今晩限りじゃ〜!(号泣)」
その夜は、悔し涙を枕にしつつ寝るしかなかったのです・・・。

そして翌日、虫というのは朝になれば活動しなくなる模様です。
着替えたりご飯を食べたり出かける準備をしなきゃいけないので恐る恐る占領された陣地に足を踏み入れましたが、奴の姿はありません。
でも、寝た子(虫)を起こしたくはないので探す気もありません。
私は、元自分の部屋なのにそ〜っと動き、憎きカナブンの機嫌を損ねないように最新の注意を払いながら出かけました。

ところで、いくらなんでもこのまま奴の寿命が尽きるのを待っているのは気の長すぎる話です。
奴を捕まえない限り、私は夜、あの部屋に足を踏み入れることが出来ないのです。(電気を点けたら飛び回るから。)
暗いままテレビを付けたりパソコンをしても、奴は絶対画面にむかって飛びかかってくるはずです。そんなの絶対に嫌です。
「虫取り網を買おう!」
私は固く心に決めました。
虫取り網なら、遠く離れた所からでも奴を捕まえることが出来ます。どこかに止まるのを待って蓋をする、なんて悠長なこともしなくて済みます。それに、捕まえてしまえば追い出すのも楽です。
「虫取り網・・・。」
帰りの電車の中で、私はそのことばかり考えていました。

私の場所を取り戻すためには、虫取り網様しかない!あの方さえいれば、絶対にもう安心。でも、もう9月なのに、売ってるだろうか・・・。

そんな不安を抱えつつ、向かったのは総合スーパーのペット用品売り場です。
昆虫用の網か、魚用の網があれば・・・そう思いながら探していると・・・
ありました!虫かごの並んだ棚に立てかけている1本の虫取り網・・・。これこそが私を救ってくれるのです。
「一体いくらするんだろう・・・。」
そう思って虫取り網を見ましたが、どこにも値段らしきものが書いてありません。
でも、私にはどうしてもこの網が必要なのです。たとえ一万円と言われようとも、間違いなく買っています。
「この網を手に入れるためなら、いくらでも出す!」
私は網を手にレジへと向かいました。
レジのお姉さん(微妙だが、あえてお姉さんと呼んでおこう!)に網を差し出すと、お姉さんは戸惑っています。
「あの、これは・・・飾りなんですけど・・・。」
飾り!?飾りってどういうこと!虫カゴを演出するための装飾品だって!?だから値札がなかったのか!
でも、飾りだからどうだというのでしょう。これを売ってもらわなければ、私はカナブンの攻撃に絶え切れず、発狂して死んでしまうかもしれません。
命の危機なのです。
「まあ、いいんじゃない。どうせそろそろ終わるし。じゃあ、500円くらいで。」
私がしっかりと網を持って離さないのを見た店のおじさんが、横から口を出してくれました。
ありがとう、おじさん!あなたも私の命の恩人です!
ほんの一瞬・・・このおじさんと結婚してもいいや、って気になったくらい・・・いや、ほんの出来心で・・・。
さて、無事に網を手に入れた私ですが、これがなかなか大きいのです。頼もしくていいのですが、スーパーの中で虫取り網を持ったOLというのはかなり奇異な種類の生き物らしく、すれ違う人達の注目を浴びました。
しかも、
いいんだ・・・これで廊下で寝た屈辱を晴らすことができるなら、それでいいんだ・・・。
ふふふ、目にもの見せてくれる、カナブンめ!
と思いながら歩いていたので、多分謎の笑みを浮かべていたと思います。
なんにせよ、私は意気揚揚と帰宅しました。電気だって堂々と点けます。だって、飛び回り始めたらこの虫取り網様にご登場願えばいいんだし♪
ところが、奴の気配はちっとも感じられません。
真夜中にならなければ飛び回らない模様です。
「まあいいか。だって私には虫取り網様がついてるし♪」
こうして私は、虫取り網を出口に立てかけたままお風呂に入り、膝に乗せたままごはんを食べ、椅子の背凭れに凭れさせたままパソコンをしました。
「どこでも一緒」網バージョン・・・。
そして、何か物音がしたような気がすると、さっと網に手を伸ばすのです。
しかし、秘密兵器の存在を嗅ぎ取ったのか、カナブンはちっとも動き始めません。
「やめてくれよ〜このままじゃ安心して寝れないよ〜。」
少し疲れ始めたその時・・・!
ブィ〜ン!
奴が飛びはじめました。
「来たっ!」
私はカナブンめがけて思いきり網を振りました。ぴたっ、と羽音が止まります。
「仕留めたのか!?」
恐る恐る網を覗くと、そこには網に引っかかってじ〜っとしてる緑の悪魔の姿・・・。
やった!ついに敵を捕獲!そう、虫取り網様の前にはカナブンなんて恐るるに足らず!
さっそく網の入り口をしぼり、外へ持って行きます。
昨日の騒ぎを思い出すと、あまりにあっけない幕切れでした。
捕獲・・・真夜中の1時半過ぎ・・・。ふっ、ざまー見ろ。
こうして網ごと外に放っておくと、翌朝にはカナブンの姿はきれいに消えていました。

ところで、何故奴は入ってきたのでしょう?
それは、すがすがしい気持ちでふと窓を見た時、あっさり解決しました。
隙間・・・ちょっと開いてるやん・・・。
カーテンで隠れていましたが、網戸とは反対側の部分が少し開いてたんです・・・でも、なんで開いたのか・・・多分、窓を毎日開け閉めしてるうちに動いちゃったんですね・・・。
こうして、二日間の戦いの後、私は領土を取り返すことが出来ました。
虫取り網様はその功績を称え、今は玄関で静かに暮らしています。
・・・多分、来年も来るだろうな・・・奴ら・・・それまで網様にはご健在願わねばなりません。
間違っても折れたり破れたりされる訳には行かないのです。だって、来年の夏、再び大型スーパーで虫取り網を持ったOLが不敵な笑みを浮かべながら歩くことになりますからね・・・。

カナブン〜2度と来んな〜!

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