曾て聞く 廠址は 錦城の東,
臺上の桃花 舊に依りて 紅し。
記すや否や 傷心 無限の事,
凌凌たる 殘郭 悲風に 晒されしを。
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昨日、大阪城に行った。森ノ宮 で降りた。わたしの中学生?ころまでの記憶では、JR環状線(※1)の森ノ宮駅−京橋駅の間(※2)の西側、大阪城の東側は、一面の鉄骨の林だった。空襲で破壊された造兵工廠の鉄骨の(ノコギリの歯状の)骨組みだけになった赤錆の鉄の林が、青空の中にあった(※3)。それが一駅の間、蜿蜒と続いた。平和になった世の中で、残されていた戦争の遺蹟だった。子どもだったわたしは、いつもそこを通る度に何故か、心が強く動いた。
あれから、数十年、アパッチの出没した廃墟は、桜林、梅園、桃園や森となって、美しい公園に整備されていた。城郭の上の天守閣や旧師団司令部を包み込んでいる桜や桃の老樹は、城の東が鉄骨の林であった時代を覚えてはいまいが…。だが、人は覚えている。わたしと経験を共有できない若い人とも、今は花園となった城東の森ノ宮でお花見を楽しみ、共に平和な春の一日を過ごした。
(子どもの時の記憶とその補充): |
※1環状線: |
当時は国鉄の城東線。老人は省線といっていた。 |
※2駅: |
当時、大阪城公園駅はなかった。森ノ宮駅−京橋駅の間の間だけ、軌道は高架から平地に下りていた。防諜のため造兵工廠を見下ろせないように配慮したためと云う。 |
※3青空…: |
環状線から西側(内側)は、大阪城までずっと工場の跡しかないので、空が広かった。 |
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・廠址: |
ここでは、森ノ宮の造兵工廠の跡のこと。 |
・錦城: |
大阪城の別称。 |
・臺上: |
城郭の中。 |
・記: |
覚えている。 |
・凌凌: |
寒々としたさま。鋭いさま。ここでは、空に衝きだした鉄骨の表現として使った 。 |
・殘郭: |
くずれた建物や城郭。ここでは、工場の鉄骨の骨組みの意で使った。殘郭壞牆 。 |