ミステリ&SF感想vol.22 |
2001.05.29 |
『法の悲劇』 『ifの迷宮』 『未来からのホットライン』 『煙の殺意』 『漂着物体X』 |
法の悲劇 Tragedy at Law シリル・ヘアー | |
1954年発表 (宇野利泰訳 ハヤカワ文庫HM60-1・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 英国の巡回裁判を舞台にした、ユニークなミステリです。まず、序盤で問題の事故が発生するわけですが、その後の事件の進行は意外なほどにゆっくりとしたものです。しかし、そのおかげで巡回裁判の過程が、人間模様を中心としてたっぷりと描かれているため、あまりなじみのないこの制度に対する理解が自然と深まるようになっています。また、どこかユーモラスな登場人物たちの言動も見逃せません。後半、やや唐突に生まれるロマンスも、終盤の展開において重要な役割を果たしています。
事件の方はといえば、脅迫状に始まって、深夜の襲撃、“毒入りチョコレート事件”、そして最後に殺人事件が起こりますが、うまいミスディレクションが仕掛けられていて、真相はよくできていると思います。特に、犯人が明らかになった後に残る“なぜ?”という問いへの答えは、非常に秀逸です。 2001.05.13読了 [シリル・ヘアー] |
ifの迷宮 柄刀 一 | |
2000年発表 (カッパ・ノベルス) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 生命倫理という重いテーマとトリッキーな謎を組み合わせた傑作です。舞台となるのは、生命に関わる技術が進歩した近未来の日本。そこでは出生前遺伝子診断がさらに一般的なものとなり、ほとんどの親たちが障害を持つ可能性が高い胎児を中絶したり、あるいは好ましい性質を持つであろう胎児を積極的に選び出したりしています。つまり、出生前に様々な性質に関する遺伝子の選別が行われているのです。
現在でも一部の遺伝子に関しては出生前診断が行われていますが、ヒトゲノム計画が進行して様々な遺伝子の機能が判明すれば、このような未来が訪れても不思議ではありません。出生前遺伝子診断自体を否定するつもりはありませんが、親が子供を選別するのだということは強く自覚しておくべきでしょう。 さて、事件の方はといえば、よみがえる死者という奇怪な現象、科学捜査の最先端であるDNA鑑定の裏をかくかのような謎、さらに土砂崩れによって閉ざされた密室など、盛り沢山の内容ですが、いずれも柄刀一らしい大胆なトリックが使われています。真相の一部については、知識があれば読めてしまうかもしれませんが、それでもネタの使い方はよくできていると思います。 そして事件の真相が解明された後には、生命倫理というテーマへの回帰。このあたりの流れも非常に自然なもので、今までに読んだ柄刀作品の中で、テーマと事件とが最もうまく結びついているように思います。 2001.05.15読了 [柄刀 一] |
未来からのホットライン Thrice upon a Time ジェイムズ・P・ホーガン |
1980年発表 (小隅 黎訳 創元SF文庫663-6) |
[紹介] [感想] 時間をテーマとしたSFの傑作であり、“タイム・マシン”の開発・試験・実用化の過程を丁寧に描くことで、科学の面白さを伝えてくれる作品です。
“タイム・マシン”自体はプロローグですでに作られていますが、この作品の圧巻はそこからです。最初は小規模の実験で動作が確認され、次いで実験結果の検証と仮説・モデルの構築が繰り返されます。この過程が非常にわかりやすく描かれている上に、仮説自体も魅力的で、退屈さを感じさせません。 後半に起こる事件はカタストロフィともいえるもので、過去を改変してこれを回避することに誰もが賛同するほどのものです。ここに至って“タイム・マシン”は実用化への第一歩を踏み出すことになります。フィクションであるために全体がかなり加速されている感はありますが、研究開発のリアリティを十分に持った作品に仕上がっています。 もちろん、過去の改変に伴うドラマ自体も魅力的です。特に、マードックの恋人になる(かもしれない)アンのエピソードには、思わず引き込まれてしまいます。 I.アシモフ『永遠の終り』などと比べると、過去の改変に関する屈託のなさがやや気になりますが、ホーガンの科学に対する楽観主義が色濃く表れた作品といえます。 2001.05.25再読了 [ジェイムズ・P・ホーガン] |
煙の殺意 泡坂妻夫 | |
1980年発表 (講談社文庫 あ22-2) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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漂着物体X 堀 晃 | |
1987年発表 (双葉文庫 ほ01-1・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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