ミステリ&SF感想vol.103 |
2005.03.29 |
『不確定世界の探偵物語』 『UMAハンター馬子 完全版1&2』 『鋼鉄都市』 『蚊取湖殺人事件』 『パーフェクト・マッチ』 |
不確定世界の探偵物語 鏡 明 | |
1984年発表 (トクマ・ノベルズ・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想] タイムマシンによって改変される世界を舞台にした、異色のSFハードボイルド連作です。
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UMAハンター馬子 完全版1&2 田中啓文 | |
2005年刊 (ハヤカワ文庫JA780/784) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
UMA(未確認生物)を題材にした、田中啓文流の――つまり、奇怪・猥雑・脱力の三拍子が揃った――伝奇小説シリーズで、以前刊行されていた『UMAハンター馬子(1) 湖の秘密』(学研M文庫)及び『UMAハンター馬子 闇に光る目』(学研ウルフ・ノベルス)に書き下ろし2篇を加えて2分冊としたものです。
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鋼鉄都市 Caves of Steel アイザック・アシモフ | |
1954年発表 (福島正実訳 ハヤカワ文庫SF336) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 黎明期に書かれたSFミステリの古典であり、またSFミステリという(サブ)ジャンルを確立したといっても過言ではない作品です。ロボットものの短編などのようにミステリの要素を取り入れたSFを書き、また後には純然たるミステリも発表しているアシモフならではというべきか、SFとミステリの均等なバランスが見事です。
本書は、例えば西澤保彦の諸作品のようにミステリにSF設定を導入したものではなく、SFの舞台上で展開されるミステリといえます。舞台となるのは、管理・統制された都市の中に過剰な人口がひしめき合うという、どこか暗鬱な未来社会(H.ハリスン『人間がいっぱい』ほどではありませんが)で、さらに地球人を抑圧するかのような宇宙人の存在により、閉塞感に拍車がかかっています。このようなディストピアSF的社会を背景にしながらも、一人の刑事を主役に、そして殺人事件の謎を中心に据えた物語の骨格は、警察小説の性格を備えたミステリそのものとなっています。 しかしその中でも、宇宙人が地球上に築き上げた“宇宙市”が殺人現場となり、SF設定が原因で不可能状況が生じているところは、SFミステリならではといえるでしょう。また、宇宙人側のロボットであるダニールが地球人の刑事であるベイリとコンビを組むことで、ミステリにつきものである事件の捜査と同時に、異質な存在との相互理解というファーストコンタクトSF的ストーリーが展開されるところも見逃せません。このように、SF要素とミステリ要素が入り混じり、しっかりと結びついているところが、本書がSFミステリとして高く評価される所以ではないでしょうか。 事件の真相はさほど複雑なものではなく(個人的には、これもSFミステリとして優れた点の一つだと思います)、真相を見抜くことも難しくはないかもしれません。しかし、その真相がある意味エレガントなものであることは間違いありませんし、それがSFとしてのテーマにつながるところもまた見事です。前述のように古典的な作品ではありますが、決して歴史的意義だけではない、一読の価値がある傑作です。 2005.03.10再読了 [アイザック・アシモフ] | |
【関連】 『はだかの太陽』 『夜明けのロボット(上下)』 『SFミステリ傑作選』(短編「ミラー・イメージ」を収録) |
蚊取湖殺人事件 泡坂妻夫 | |
2005年発表 (光文社文庫 あ12-10) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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パーフェクト・マッチ A Perfect Match ジル・マゴーン | |
1983年発表 (高橋なお子訳 創元推理文庫112-02) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] ジル・マゴーンのデビュー作で、ロイド警部とジュディ・ヒル部長刑事を主役としたシリーズの第1作にあたるようです。
本書でまず目を引くのは、多視点によるその叙述で、さほど数の多くない登場人物たちの心理が克明に描かれ、物語に深みを与えています。特に、逃亡中の容疑者であるクリスの半ば混乱した心理描写を通じて、何が起こったのかが少しずつ明らかになっていくあたりはなかなか面白いと思います。また、なぜか現場周辺の様々な動物たちの擬人化された視点による描写が時おり挿入されていますが、事件に翻弄される人間たちを突き放すかのような淡々とした文章が、独特の効果を上げているところも見逃せないでしょう。 事件は比較的地味ながら、意外に真相は見えにくくなっています。中心となるネタはかなりシンプルなものであるにもかかわらず、全編に張りめぐらされた罠によってそれを見事に隠し通す作者の手腕は、卓越したものといっていいでしょう。あるいは勘のいい人であれば途中で気づいてしまうかもしれませんが、それでも作者の罠がよくできていることは間違いありません。 一方、物語のモチーフとなっている結婚生活の破綻については、人によって好みが分かれるのではないかと思います。中心となるのは被害者の義弟であるドナルドと妻のヘレンの冷え切った関係ですが、さらに捜査にあたる側のジュディ・ヒル部長刑事やロイド警部など、作中で言及された夫婦関係のほとんどが(死別も含めて)うまくいっていないという徹底ぶり。少々くどく感じられてしまうのは確かですが、これはこれでいいのかもしれません。 2005.03.16読了 [ジル・マゴーン] |
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