硝子窗櫺掩浴堂,
水煙浮起蜜柑香。
燈前嬉戲雙
偸眼池邊鷺一行。
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日京 竹枝詞百首 歳除夜
硝子の 窗櫺 浴堂を 掩ひ,
水煙 浮き起こり 蜜柑 香る。
燈前に 嬉戲す 雙の ,
偸かに眼にす 池邊の 鷺 一行。
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◎ 私感註釈
※日京竹枝詞百首:日本の首都東京竹枝詞 ・日京:日本の首都のこと。東京。 ・竹枝詞:風俗描写をした七絶形式の詩の称。
※歳除夜:大晦日。一群の作品から見ると、この作品は、明治末期の東京の様子を描いている。これは、大晦日のお風呂屋の様子である。作者は、日本の漢字の使い方に興味があり、「硝子」「蜜柑」「湯屋」の語に註釈を付けている。他でも、「辻」「込」というのをわざわざ詠み込んで、異国情緒を楽しんでいる。自注で、当時の東京の風俗が細かく記されている。「日人喜潔,浴池營業者衆,名曰:『湯屋』。男女同浴,東京雖懸禁令,……」と、なかなかおもしろい。なお、作者が「湯屋」の語にひかれたのは、“湯”は白話では「スープ」の意になるため。“湯屋”は「スープのお家」になる。日本は、古漢語の伝統を保っている。
※硝子窗櫺掩浴堂:ガラスの格子窓で浴室を覆い。ガラスの格子窓で覆われた浴室。ハイカラな様子をもいう。 ・硝子:ガラス。注記して「『硝子』とは“玻璃”のこと」とある。日中の語の乖離がよく分かる。 ・窗櫺:れんじ窓。格子窓。 ・掩:おおう。・浴堂:浴室。風呂場。自註では、男女混浴、となっている。
※水煙浮起蜜柑香:湯煙が立ち上ってミカンの香りがする。 ・水煙:湯煙。湯気。・浮起:湧き起こる。立つ。 ・蜜柑香:ミカンの香りがする。自註では大晦日の厄よけの風習としてお湯に入れる、とある。また「蜜柑」にも注記して、「ダイダイに近いもの」としている。中国語の“蜜柑(mi4gan1)”は、大型のもので、日本の「三宝柑」のようなものを指すため。
※燈前嬉戲雙:明かりのところでは、男女がいちゃついている。 ・燈前:・嬉戲:戯れる。いちゃつく。若い男女の様子。 ・雙:男女ペアの。 ・:〔けいちょく;xi1chi4〕オシドリ(鴛鴦)に似た水鳥。つがいで動く。鴛鴦とともに、男女の行動の表現に使う。紫鴛鴦。
※偸眼池邊鷺一行:こっそりとシラサギのような白い裸形の婦人方の姿を見る。 ・偸眼:こっそりと見る。 ・池邊:池の畔。ここでは、浴槽で。なお、浴槽は“浴池”という。 ・鷺一行:シラサギのように白い裸形の婦人方の姿。
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◎ 構成について
一韻到底。作品全体の韻式は「AAA」。韻脚は「邊天年」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は次の通り。
○●○○●●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2003.9.1 9.2完 |
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