長相思 雨 | |
宋・万俟詠 |
一聲聲。
一更更。
窗外芭蕉窗裏燈。
此時無限情。
夢難成。
恨難平。
不道愁人不喜聽。
空階滴到明。
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長相思 雨
一聲 聲。
一更 更。
窗外 の芭蕉 窗裏 の燈。
此 の時 無限の情。
夢 成り難 く。
恨 み 平らかなること難 し。
道 らず 愁人 聽くを喜ばず。
空階 滴 りて明 に到るを。
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◎ 私感註釈
※万俟詠:複姓で、万俟(ばんし/まんし/Mo4qi2)が姓。北宋末〜南宋初期の詞人。字は雅言。詞隠と号す。出身地不詳。生没年不詳。音律に巧みで新境地を開いた。詞は柳永に学んだ。
※長相思:詞牌の一。詳しくは「◎構成について」を参照。 ・雨:あめ。詞題。
※一声声:(屋外のバショウの葉に当たる雨音が)一音、一音と(パラパラと)。 ・一声声:(葉に当たる雨音が)一音、一音と。一声ひとこえ。パラパラ。 *芭蕉の葉に当たる雨音を謂う。晩唐〜・温庭筠の『更漏子』に「玉爐香、紅蝋涙。偏照畫堂秋思。眉翠薄、鬢雲殘。夜長衾枕寒。 梧桐樹。三更雨。不道離情正苦。一葉葉、一聲聲。空階滴到明。」とあり、清末・秋瑾の『昭君怨』に「恨煞回天無力,只學子規啼血。愁恨感千端,拍危欄。 枉把欄干拍遍,難訴一腔幽怨。殘雨一聲聲,不堪聽!」とある。
※一更更:刻々と(減っていく屋内の灯(ともしび)の油)。 ・一更更:一更(こう)一更(こう)と。一刻(いっこく)一刻と。一時(いっとき)一時と。*刻々と減っていく屋内の灯(ともしび)の油(/蝋燭)を謂う。 ・一更:現在の約二時間。
※窓外芭蕉窓裏灯:屋外のバショウに屋内の灯(ともしび)。 *「窓外芭蕉窓裏灯」の句は「窓外芭蕉+窓裏灯」と句中の対で構成されている。「わたしの心を乱すものは、『一声声の窓外の芭蕉』(一音一音、(雨に)音を立てる屋外のバショウの葉)であり、『一更更の窓裏の灯』(一時間、一時間と、(刻々と減っていく)屋内の)灯(ともしび)の油である」ということ)。 ・芭蕉:〔ばせう;ba1jiao1○○〕バショウ。バショウ科の大型の多年生草本。高さ約五メートルの偽茎の先に葉をつける。詞では「芭蕉雨」(バショウの葉に雨が当たり、雨音を立てているさま)のことを謂う。晩唐・杜牧の『雨』に「連雲接塞添迢遞,灑幕侵燈送寂寥。一夜不眠孤客耳,主人窗外有芭蕉。」とあり、北宋・歐陽脩/張先の『生査子』に「含羞整翠鬟,得意頻相顧。雁柱十三弦,一一春鶯語。嬌雲容易飛,夢斷知何處。深院鎖黄昏,陣陣芭蕉雨。」とあり、両宋・李清照の『添字采桑子』に「窗前誰種芭蕉樹,陰滿中庭。陰滿中庭。葉葉心心、舒卷有餘情。傷心枕上三更雨,點滴霖霪,點滴霖霪,愁損北人、不慣起來聽!」とあり、南宋・呉文英の『唐多令』に「何處合成愁?離人心上秋。縱芭蕉、不雨也颼颼。キ道晩涼天氣好,有明月、怕登樓。 年事夢中休。花空煙水流。燕辭歸、客尚淹留。垂柳不縈裙帶住。漫長是、繫行舟。」と芭蕉の葉に落ちる雨音をうたう。
※此時無限情:この時は、限りない思い(で)。 ・此時:この時:屋外では、バショウの葉に当たる雨音がパラパラと音を立て、屋内では刻々と減っていく灯(ともしび)の油=雨の夜更けの時。 ・無限情:限りない思い。
※夢難成:(穏やかな)夢は、なし難(がた)く。 ・難成:なし難(がた)い。元・王從叔の『昭君怨』に「門外春風幾度?馬上行人何處?休更卷珠簾。草連天。 立盡海棠花月。飛到荼蘼香雪。莫恨夢難成。夢無憑。」とある。
※恨難平:うらみごとは、穏やかにし難(がた)い。 ・難平:たいらかにし難(にく)い。
※不道愁人不喜聴(,空階滴到明):(第三者には、)孤独な詩人(=作者)が(明け方まで続く芭蕉の葉を打つ雨音を)聴くのが嫌いだということが、理解できない(ことだろう)。「不道:〔愁人不喜聴,空階滴到明〕」ということ。 ・不道:(詞語)分からない。思いがけなく。思いもよらず。はからずも。構わない。(白話)分からない。思いがけなく。思いもよらず。はからずも。言わず。道理に合わない。気が付かない。構わない。…にかかわりなく。『中国詞学大辞典』(浙江教育出版社)「語辞」629ページに「@不管、不顧。A不覺。B不知。C不料」とある。前出・温庭筠の『更漏子』に「玉爐香、紅蝋涙。偏照畫堂秋思。眉翠薄、鬢雲殘。夜長衾枕寒。 梧桐樹。三更雨。不道離情正苦。一葉葉、一聲聲。空階滴到明。」とある。 ・愁人:心にうれえ、かなしみのある人。もののあわれを感ずる人。詩人。騒人。
※空階滴到明:人気のないきざはしに(雨が、そして涙が)滴って、明け方まで続いて、夜明けを迎える。この句は「不道愁人不喜聴,空階滴到明」という脈絡で見ること。 ・空階:人気(ひとけ)のないきざはし。 ・滴到明:(雨が、そして涙が)滴って、明け方まで続き、夜明けを迎える。前出・温庭筠の『更漏子』に「…梧桐樹。三更雨。不道離情正苦。一葉葉、一聲聲。空階滴到明。」とあり、北宋・張詠の『雨夜』に「簾幕蕭蕭竹院深,客懷孤寂伴燈吟。無端一夜空堦雨,滴碎思ク萬里心。」とある。
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2017.6.15 6.16完 12. 6補 |
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