妖桃昨夜灼前林, 忽見飛紅一寸深。 開落眞成渠自取, 春風豈有兩般心。 |
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春感
妖桃 昨夜 前林に 灼(さきほこ)り,
忽(たちま)ち 見る 飛紅 一寸の 深きを。
開落 眞成に 渠(かれ) 自(みづか)ら 取り,
春風 豈(あ)に 兩般の心 有らんや。
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◎ 私感註釈
※友野霞舟:江戸時代後期の詩人、儒者。寛政三年(1791年)〜嘉永二年(1849年)。名は。字は子玉。通称は雄助。霞舟は号になる。
※春感:春の感懐。この作品は『無題』「鴛衾暖透更怡融」同様、香奩体(婉約詩)の詩。本当にいろいろと考えられる詩であり、本サイトでは、婉約体の詩詞は晩唐五代の『花間集』、宋の婉約詞集、(漢魏)六朝の艶体詩『玉台新詠』集、個人では南唐の李U集等がある。この作品は、とりようによっては、どうともとれるので、意図的にあっさりとしか註釈しない。あまり深く煮詰めて詮索すると、誤解の生ずる虞があるので…。
※妖桃昨夜灼前林:艶やかな桃の花が、昨夜、前の林に咲き誇った。 ・妖桃:『詩經』周南にある『桃夭』「桃之夭夭,灼灼其華。之子于歸,宜其室家。」を蹈まえている。 ・昨夜:昨晩。 ・灼:花が盛んに咲いているさま。前出『桃夭』「灼灼其華。」からきている。 ・前林:前の方の林。
※忽見飛紅一寸深:忽ちに空を飛んでゆく花びらが、一寸ほどに、降り積もった。 ・忽:たちまち。 ・飛紅:空を飛んでゆく花びら。 ・一寸深:降り積もった花びらが2、3cmほどになった。 ・一寸:長さの単位。 ・深:ふかい。
※開落眞成渠自取:(花が)咲いたり、散ったりするのは、桃の木(の方が)自らが取捨選択している(のであって)。 ・開落:花の咲くことと散ること。咲いたり、散ったり。開謝。 ・眞成:ほんとうに。「真正」か。 ・渠:〔きょ;〕かれ。彼。代名詞。なんぞ。いずくんぞ。疑問詞。 ・自取:自ら取る。
※春風豈有兩般心:春風にどうして(「花を咲かせること」と「花を散らせること」との)二種類の心があろうか。「美しく咲き誇らせたい」という一種類だけである。 ・春風:春の風。 ・豈有:どうして……か。 ・兩般心:二種類の心。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「林深心」で、平水韻下平十二侵。次の平仄はこの作品のもの。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●○○○●●,
○○●●●○○。(韻)
平成16.4.7 4.8完 |
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