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          遂奉遊芳埜  
                       頼山陽

侍輿下阪歩遲遲,
鶯語花香帶別離。
母已七旬兒半百,
此山重到定何時。



           平成十六年四月二日の吉野山


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遂に奉じて 芳埜に遊ぶ

                       
輿に 侍し 阪を 下る  歩 遲遲(ちち)たり,
鶯語(あう ご ) 花香  別離を 帶ぶ。
母 (すで)
に 七旬  兒は 半百,
此の山 重ねて到るは  定めて(いづ)れの時ならんや。

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◎ 私感註釈

※頼山陽:安永九年(1780年)〜天保三年(1832年)。江戸時代後期の儒者、詩人、歴史家。詩集に『日本樂府』、『山陽詩鈔』などがある。
備後 三次 頼山陽の伯父頼杏坪役宅 
        YQ先生撮影・提供

※遂奉遊芳埜:ついでに、母を奉じて。母のお供をして、吉野を遊覧する。同題の詩に(頼山陽の)『遂奉遊芳埜』「前度尋春花已闌,今來暖雪照人顏。十年纔補平生缺,奉母重遊芳埜山。」がある。 ・遂:ついに。その結果として、とうとう。したがう。ついでに。 ・奉:つかえる。かしづく。母を奉じて。母のお供をして。この作品の前に「奉母及叔父遊嵐山」の意から推すと、「遂奉・遊芳埜」の意になる。ただ「奉」は「遊」にかかる敬語表現でもある。 ・遊:遊歴する。遊覧する。 ・芳埜:芳野。吉野。吉野山。

※侍輿下阪歩遲遲:母親の乗った乗り物に付き従って、のろのろと坂をくだっていく(と)。 ・侍:侍す。傍に附く。 ・輿:こし。母親の乗った乗り物。 ・下阪:坂をくだる。 ・歩:あゆみ。あゆむこと。 ・遲遲:のろのろとしている。

※鶯語花香帶別離:ウグイスがさえずり、花が香るという、春の盛りなのに、別れの風情を漂わせている。 ・鶯語:ウグイスのさえずり。韋荘の『應天長』「込ナ陰裏
黄鶯語。」 や『C平樂』「野花芳草,寂寞關山道。柳吐金絲鶯語。」 に使われている。 ・花香:花の香り。 ・鶯語花香:春の盛りの表現。  ・帶別離:別れの(愁いの)雰囲気を帯びている。別れの風情を漂わせている。

※母已七旬兒半百:母は、七十をすでに越えて、児(の頼山陽)は、五十歳になっており。 ・母:頼山陽の母。 ・已:すでに。 ・七旬:七十歳。 ・旬:十干の一巡り。「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」の十種になり、十。ここでは、十年の意で使われている。 ・兒:頼山陽自身。韻脚と同じ韻部になるが、ここ第五字目は
●●●○○●●と、平韻になるべきながれなので、「兒」を使い、「子」字などは避けた。第三字目の「七」は、他の字に置き換えられないので、敢えて第五字目をこうしたともいえる。 ・半百:五十(歳)。白居易は、屡々「我今半百」(五十歳)、「明年半百又加三」(五十三歳)、「半百過九年」(五十九歳)と、年齢を謂うのに「半百」を使う。

※此山重到定何時:(この次に)この山に再び来るのは、一体、いつごろになるのだろうか。 *二人とも老齢故、今回が今生の見納めとなるであろう、ということ。白居易の『遊趙村杏花』「趙村紅杏毎年開,十五年來看幾迴。七十三人難再到,今春來是別花來。」 も、異なったアプローチではあるが、同様の感情を詠っている。 ・此山:この山。吉野山を指す。 ・重到:再び来る。 ・定:さだめし。 ・何時:いつ。
               ***********





◎ 構成について

韻式は「AAA」。韻脚は「遲離時」で、平水韻上平四支。次の平仄はこの作品のもの。

●○●●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)

平成16. 4.12
       4.13完
       4.14補
       4.29
平成23.10.20
令和 3.11.16



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