詩詞世界　碇豊長の詩詞・漢詩　李清照　點絳唇

李淸照詞
李清照
　　點絳唇

寂寞深閨，
柔腸一寸愁千縷。
惜春春去，
幾點催花雨。

倚遍欄干，
只是無情緒。
人何處，
連天衰草，
望斷歸來路。

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　　　　　　點絳唇

寂寞たる　　深閨，
柔腸　一寸　　愁ひ　千縷。
春を惜めど　　春は去り，
幾點かの　　花を催ほす　雨。

欄干に　倚ること遍くも，
只だ是れ　　情緒（いき）　無し。
人　何處（いづこ）ぞ，
天に連なる　　芳草は，
望斷す　　歸來の　路を。

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私感訳註：

※點絳唇：詞牌の一。詞の形式名。南浦月、点桜桃ともいう。双調　四十一字。仄韻一韻到底。詳しくは　「構成について」を参照。この作品は、彼女の結婚初期の作品。政争に関聯して夫と別居した時の作。
※寂寞：寂しい。夫・明誠と別居していたことから来る寂しさをいう。
※深閨：奥深い婦人の部屋。閨：婦人の部屋。
※柔腸：（古白話）思いやりのある心根。ここでは李清照の夫を思う心。
※千縷：千本の糸。転じて、千々に（愁いを馳す）こと。極めて多数をいう。
※惜春：行く春を惜しむ。同時に作者の人生の春についても云っている。
※春去：春が過ぎ去る。作者の青春も過ぎようとしている。また、眼前の景としては、雨が花に当たって、花が散ってゆくこともいっている。
※幾點：何粒かの（雨）。
※催花雨：花を咲かせる雨。草木の芽吹きを促す雨。慈雨。
※倚遍欄干：倚欄干は宋詞によくある表現の一。高殿の手すりに寄りかかって、遙か彼方を眺めやりながら物思いに耽るさまをいう。

　遍：（詞語）満、完。
※只是：（白話）ただ…だけだ。もっぱら…するだけだ。この用法の是にはさしたる意味はない。接続詞、副詞語尾として後に付いて用いられる。
※情緒：（白話）意気込み。意欲。
※人何處：（わたしの大切なあの）人は、今どこにいるのか。新婚で別居した夫を思っている。
※連天：天にまで連なる。遙か地の果てまで、ずっと広がっているさまをいう。作者の夫を想う思念の大きさをもいっている。
※芳草：かおりのよい草。春の草花。芳草は、衰草とするのもある。
※望斷：眺めても見通せない。
※歸來路：（大切なあの人が）帰ってくる道筋。

◎　構成について

　　　　　　　　　　双調。四十一字。仄韻一韻到底。韻式は「aaa　aaaa」。韻脚は「縷去雨　緒處路」で、第四部去声。　

　　　　