書憤
　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　陸游

早歳那知世事艱， 中原北望氣如山。 樓船夜雪瓜洲渡， 鐵馬秋風大散關。 塞上長城空自許， 鏡中衰鬢已先斑。 出師一表真名世， 千載誰堪伯仲間。

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　　　　　　憤を書く
　　　　　　　　　　

早歳　那（なん）ぞ知らん　　世事の艱（かた）きを，
中原　北を望みて　　氣　山の如し。
樓船　夜雪　　瓜洲の渡，
鐵馬　秋風　　大散關。
塞上の長城と　　空しく自ら許せしも，
鏡中の　衰鬢　　已（すで）に　先（は）や　斑（まだら）なり。
出師の　一表　　真に　世に　名をあげ，
千載　誰（たれ）か堪へん　　伯仲の間。

問樵客。暝宿長林下，焚香臥瑤席。澗芳襲人衣，山月映石壁。再尋畏迷誤，明發更登歴。笑謝桃源人，花紅復來覿。」 韋応物の「寄李儋元錫」に「去年花裏逢君別，今日花開又一年。

茫茫難自料，春愁黯黯獨成眠。身多疾病思田里，邑有流亡愧俸錢。聞道欲來相問訊，西樓望月幾迴圓。」とある。

※中原北望氣如山：中原のある北の方を望んで、意気は（軒昂として）山のように大きかった 。　・艱：むつかしい。困難がある。　・中原：黄河下流流域の漢民族の故地。当時は、女真の金の国になっていた。　・北望：北の方（の中原）を望んで。　・氣如山：意気は（軒昂として）山のように大きかった 。

※樓船夜雪瓜洲渡：軍船が夜雪（を冒して）瓜洲の渡（に集結した）。　・樓船：船の上に楼がある船。いくさ船。右下写真参照。　・瓜洲渡：瓜洲京口（現・鎮江）の対岸。江蘇省の南方。長江沿岸の港。

※鐵馬秋風大散關：軍馬は秋風の（吹く）大散關（に集結した）。　・鐵馬：軍馬。武装した軍馬。ここでは南宋の軍隊を指す。　・大散關：陝西省にある南宋と金との境界の地名。ここでも戦闘が行われた。

※塞上長城空自許：護国の英雄と空しく自ら任じてきたが。　・塞上長城：辺疆にある万里の長城。ここでは、祖国を守護する人物、護国の英雄、という意味で使われている。　・空自許：護国の英雄と自認していたが、むなしくなった。　・空自：東晉の陶潛『己酉歳九月九日』に「蔓草不復榮，園木空自凋。」と使われている。

※鏡中衰鬢已先斑：鏡を見れば、数が減った髪のもうとっくに白髪が混じっている。　・鏡中：鏡の。　・衰鬢：数が減った髪。　・已：とっくに。もう。すでに。　・斑：まだら。まだら模様。ごま塩頭になった。白髪が混じってきたこと。華髪。

※出師一表真名世：「出師表」は、その壮烈さにおいて、世の中で本当の名声を挙げる。　・出師一表：諸葛亮の『前出師表』（『後出師表』）が「蜀書・諸葛亮伝第五」に「先帝創業未半而中道崩，今天下三分，益州疲弊，此誠危急存亡之秋也。然侍衛之臣不懈於内，忠志之士忘身於外者，蓋追先帝之殊遇，欲報之於陛下也。…」とあり、古来、その忠烈の情は、鬼神を泣かしむるものがあるといわれている。

※千載誰堪伯仲間：長い歴史上で、いったい誰が諸葛亮と（その忠烈さにおいて、）兄弟同様（の輝きがある）と認められようか。　・名世：世の中で名声を挙げる。　・千載：千年。長い年月。転じて、歴史上で。　・誰堪：誰がいったい……にたえられようか。　・伯仲：兄弟。

２００２．４．１７完 ２００３．８．　７補 ２０１８．３．　１

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