塞上曲
　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　陸游

老矣猶思萬里行， 翩然上馬始身輕。 玉關去路心如鐵， 把酒何妨聽渭城。

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　　　　　　　　　　　　塞上の曲
　　　　　　　　　　

老い矣（たる）かな　　猶（なほ）も思ふ　萬里の行を，
翩然として　馬に上る　　始めての身　輕し。
玉關の　去路　　心　鐵の如くなれど，
酒を把（と）りて　何ぞ妨げん　　「渭城」を聽くを。

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◎　私感訳註：

※塞上曲：辺疆の地での戦役の歌。万里の長城の外での戦役の歌。国境を歌ったもの「塞下曲」と同じ。本来は、音曲「出塞」と関係したか唐・李白の『戰城南』「去年戰桑乾源，今年戰葱河道。洗兵條支海上波，放馬天山雪中草。萬里長征戰，三軍盡衰老。匈奴以殺戮爲耕作，古來唯見白骨黄沙田。秦家築城備胡處，漢家還有烽火然。烽火然不息，征戰無已時。野戰格鬪死，敗馬號鳴向天悲。烏鳶啄人腸，銜飛上挂枯樹枝。士卒塗草莽，將軍空爾爲。乃知兵者是凶器，聖人不得已而用之。」や、杜甫の『兵車行』「君不見青海頭，古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭，天陰雨濕聲啾啾。」、白居易『新豐折臂翁』「君不聞開元宰相宋開府，不賞邊功防黷武。又不聞天寶宰相楊國忠，欲求恩幸立邊功。邊功未立生人怨，請問新豐折臂翁。」などと、その主張は同じ。同題に、李白の『塞下曲』「五月天山雪，無花祗有寒。笛中聞折柳，春色未曾看。曉戰隨金鼓，宵眠抱玉鞍。願將腰下劍，直爲斬樓蘭。」や、王昌齡の『塞下曲』「飮馬渡秋水，水寒風似刀。平沙日未沒，黯黯見臨。昔日長城戰， 咸言意氣高。 黄塵足今古，白骨亂蓬蒿。」や、常建の『塞下曲』「北海陰風動地來，明君祠上望龍堆。髑髏皆是長城卒，日暮沙場飛作灰。」や、張仲素『塞下曲』「朔雪飄飄開雁門，平沙歴亂捲蓬根。功名恥計擒生數，直斬樓蘭報國恩。」 などがある。

※老矣猶思萬里行：歳をとってしまったが、（今も）なお思い出されるのは（若い頃の）遠征である。　・老矣：老いてしまった。　・矣：…てしまった。完了、過去を表す語気助詞。　・猶思：それでも、なおも思うのは。　・萬里行：遠征。遠くまでの行軍、行旅。

※翩然上馬始身輕：ひらりと馬に跨るさまは、はじめの頃は軽々としていた。若い頃は、従軍の準備もてきぱきとしていた。　・翩然：ひらひらと。軽やかに動くさま。ここでは、ひらりと馬に跨って、の意。　・上馬：馬に乗る。馬に跨る。≒騎馬。「上馬」は

　・始身輕：はじめは身軽だった。　・始：はじめる。はじめて。日本語の表記では、「はじめる、開始する」という意味の動詞は「始める」と「始」字を使い、一方、「はじめて、最初に」という意味の副詞は、「初めて」と「初」字を使うという、意味による使い分けがある。但し、詩詞では、「はじめて」という副詞の場合でも、「始」字を使う場合がある。

※玉關去路心如鐵：玉門関への道程は鉄血の心腸で進んだ。夷狄征伐の堅い決意で、玉門関への路を進んだ。　・玉關：玉門関。現・甘肅省燉煌西北にある。詩詞では、古来夷狄に対しての前進基地として詠われている。　・去路：往路。玉関へ行く路。　・心如鐵：心は鉄のようである。

※把酒何妨聽渭城：酒の杯を持ち上げて送別の『渭城曲』を聴くこともかまわない。敵愾心にはやるだけでなく、送別の「渭城曲」を聴くゆとりもあるということ。　・把酒：酒の杯を持ち上げて。　・何妨：どうしてさまたげようか。別段、妨げない。構わない。　・聽渭城：「渭城曲」「陽關三畳」を聴くこと。王維の「送元二使安西」からきている。「渭城朝雨輕塵，客舎����柳色新。勸君更盡一杯酒，西出陽關無故人」。後、送別の曲として位置づけられた。ここでも、その意味で「別れの曲を聴く」。

２００２．４．２０ 　　　　　４．２１完

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