朔雪飄飄開雁門,
平沙歴亂捲蓬根。
功名恥計擒生數,
直斬樓蘭報國恩。
******
塞下の曲
朔雪(さくせつ) 飄飄(へうへう)として 雁門(がんもん)を 開き,
平沙 歴亂(れきらん)として 蓬根(ほうこん)を 捲く。
功名 擒生(きんせい)の數を 計(かぞ)ふるを 恥ぢ,
直ちに 樓蘭(ろうらん)を 斬りて 國恩に 報ぜん。
◎ 私感註釈 *****************
※張仲素:中唐の詩人。字は繪之。河間の人。憲宗の時に翰林學士となり、後に中書舍人となった。
※塞下曲:辺塞地の攻防の歌。新楽府題。李白の『塞下曲』に「五月天山雪,無花祗有寒。笛中聞折柳,春色未曾看。曉戰隨金鼓,宵眠抱玉鞍。願將腰下劍,直爲斬樓蘭。」とあり、常建の『塞下曲』に「玉帛朝回望帝ク,烏孫歸去不稱王。天涯靜處無征戰,兵氣銷爲日月光。」とあり、王昌齢の『塞下曲』に「飮馬渡秋水,水寒風似刀。平沙日未沒,黯黯見臨。昔日長城戰,咸言意氣高。黄塵足今古,白骨亂蓬蒿。」 とある。
※朔雪飄飄開雁門:北方の胡地から雪が風に吹かれて舞い上がり、雁門の関を押し開こうとしている。 ・朔雪:〔さくせつ;shuo4xue3●●〕北方の胡地(えびすの地)の雪。また、後出・『中国歴史地図集』第五冊唐「河東道」では関を越えた北隣に朔州があり、その方向とも謂える。 ・飄飄:風に吹かれて軽く上がるさま。陶淵明の『歸去來兮辭序』に「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫,知來者之可追。實迷途其未遠,覺今是而昨非。舟遙遙以輕,風飄飄而吹衣。問征夫以前路,恨晨光之熹微。」とある。 ・開:他動詞としての位置にある。「開雁門」という表現からは、吹雪の力が雁門を押し開くの意になる。 ・雁門:関の名。雁門関。雁門山上の関。山西省代県西北の代州と朔州の間にある。別名西関。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)46−47ページ「河東道」にある。太原の北120キロメートルの所。李賀の『雁門太守行』に「K雲壓城城欲摧,甲光向日金鱗開。角聲滿天秋色裏,塞上燕支凝夜紫。半卷紅旗臨易水,霜重鼓寒聲不起。報君黄金臺上意,提攜玉龍爲君死。」とある。 蛇足になるが、後世の『白毛女』の『北風吹』の雰囲気でもある。
※平沙歴亂捲蓬根:平坦に広がっている土漠では、ヤナギヨモギが風に飛ばされまるくなって、転がっていく。 ・平沙:平坦な沙(土)漠。どこまでも続く沙漠状の荒れ地。 ・歴亂:入り乱れるさま。 ・捲:まく。(根が土から離れやすいヤナギヨモギが、風の力で飛ばされ、クリスマスリースのように)まるまって。 ・蓬根:(風に飛ばされて)転がってゆく蓬。飛蓬。「蓬」は、日本のヨモギとは異なる。蓬が枯れて、根元の土も風に飛ばされてしまい、根が大地から離れて、枯れた茎が輪のようになり、乾いた黄土高原を風に吹かれて、恰も紙くずが風に飛ばされるが如く回りながら、黄砂とともに流れ去ってゆく。映画『黄土地』にもその場面が出てくる。江湖を流離う老人が、転蓬とともに歩み去ってゆく。黄色い砂埃がやがて、老人も転蓬をも隠してゆく…。中華版デラシネ表現の一。流転の人生の象徴。飛蓬。転蓬。曹植の『吁嗟篇』「吁嗟此轉蓬,居世何獨然。長去本根逝,宿夜無休閑。東西經七陌,南北越九阡。卒遇回風起,吹我入雲間。自謂終天路,忽然下沈泉。驚飆接我出,故歸彼中田。當南而更北,謂東而反西。宕宕當何依,忽亡而復存。飄周八澤,連翩歴五山。流轉無恆處,誰知吾苦艱。願爲中林草,秋隨野火燔。糜滅豈不痛,願與根連。」、李白の『送友人』「青山北郭,白水遶東城。此地一爲別,孤蓬萬里征。浮雲遊子意,落日故人情。揮手自茲去,蕭蕭班馬鳴。」
※功名恥計擒生數:てがらとして、捕虜を生け捕った数を計算することは恥ずかしいことであって。 ・功名:てがら。 ・恥:はじる。自分の活躍の目的が小さいことを恥じいる。 ・計:かぞえる。計算する。 ・擒生:〔きんせい;qin2sheng1○○〕生け捕りになったもの。捕虜。 ・數:〔すう;shu4●〕かず。名詞。
※直斬樓蘭報國恩:(功名とは)直ちに(敵の王である)樓蘭王を斬り殺して国恩に報(むく)いることにこそある。 ・直斬:ただちに斬る。前漢の昭帝の頃、傅介子が樓蘭王を殺したことに基づく。『漢書』本紀・昭帝紀に「平樂監傅介子持節使,誅斬樓蘭王安,歸首縣北闕,封義陽侯。」とある。『資治通鑑』では、「陳湯之斬單于,傅介子之刺樓蘭,馮奉世之平莎車,班超之定西域,皆爲有漢之雋功。」と、その事績が残っている。李白の『塞下曲』の「五月天山雪,無花只有寒。笛中聞折柳,春色未曾看。曉戰隨金鼓,宵眠抱玉鞍。願將腰下劍,直爲斬樓蘭。」にも同様に詠われている。 ・樓蘭:〔ろうらん;lou2lan2○○〕漢代、西域にあった国。都市名。天山南路のロブノール湖(羅布泊)の畔にあった漢代に栄えた国(都市)。ローラン。原名クロライナ。現・新疆ウイグル(維吾爾)自治区東南部にあった幻の都市。天山の東南で、新疆ウイグル自治区中央部のタリム盆地東端、善〔善+おおざと〕県東南ロブノール湖(羅布泊)の北方にあった。そこに住む人種は白人の系統でモンゴリアンではなく、漢民族との抗争の歴史があった。四世紀にロブノール湖(羅布泊)の移動により衰え、七世紀初頭には廃墟と化した。現在は、楼蘭古城(址)が砂漠の中に土煉瓦の城壁、住居址などを遺しているだけになっている。岑参に『胡笳歌送顏真卿使赴河隴』「君不聞胡笳聲最悲,紫髯濠瘡モ人吹。吹之一曲猶未了,愁殺樓蘭征戍兒。涼秋八月蕭關道,北風吹斷天山艸。崑崙山南月欲斜,胡人向月吹胡笳。胡笳怨兮將送君,秦山遙望隴山雲。邊城夜夜多愁夢,向月胡笳誰喜聞。」 がある。李白の『塞下曲』「五月天山雪,無花祗有寒。笛中聞折柳,春色未曾看。曉戰隨金鼓,宵眠抱玉鞍。願將腰下劍,直爲斬樓蘭。」とある。王昌齡の『從軍行』「青海長雲暗雪山,孤城遙望玉門關。黄沙百戰穿金甲,不破樓蘭終不還。」などがある。 ・報:むくいる。へんじをする。 ・國恩:国や国王から受ける恩。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「門根恩」で、平水韻上平十三元。平仄はこの作品のもの。
●●○○○●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2007. 4. 8 4. 9 4.10完 2008.10.12補 |
次の詩へ 前の詩へ 唐宋碧血の詩篇メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 陶淵明集 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |
メール |
トップ |