******
結廬在人境,
而無車馬喧。
問君何能爾,
心遠地自偏。
采菊東籬下,
悠然見南山。
山氣日夕佳,
飛鳥相與還。
此中有眞意,
欲辨已忘言。
飮酒 其五
廬を結ぶに 人境に在り,
而して 車馬の喧(かまびす)しき 無し。
君に問ふ 何ぞ能く爾ると,
心 遠ければ 地 自ら偏(かたよ)る。
菊を采(と)る 東籬の下(もと),
悠然として 南山を 見る。
山氣 日夕に 佳(よ)く,
飛鳥 相ひ與(とも)に 還(かへ)る。
此の中に 眞意 有り,
辨んと欲して 已(すで)に 言を忘る。
*****************
◎ 私感註釈
※陶潜:陶淵明。東晋の詩人。五柳先生と自称し、田園生活と酒をよく詠う。
※飮酒 其五:このページは「飮酒」の其五の部分である。『昭明文選』では、『雜詩』二首「其一」となっている。
※結廬在人境:隠遁して暮らす庵は、(それほど)人里から離れてはいない。(隠者は、世間では、人里から離れた、ところにいおりを結ぶそうだが、わたしは、)人々住んでいる俗なところに、住まいを構えている。 ・結廬:いおりを結ぶ。隠居所を構える。 ・在:…にある。存在をいう。 ・人境:人の住んでいるところ。俗世間。人の世。ここの意は、人里離れたところに隠遁しているのではない、ということ。
※而無車馬喧:(俗世間に住んではいるものの)訪問客がしばしば来て、その乗り物の車馬の音が騒々しい、ということはない。ここは、俗世間に住んではいるものの、他人との交流は活発ではない、ということ。 ・而無:…ではあるが…のことは無い。 ・而:ここは逆接になる。 ・車馬喧:(交際のときに、上流階級が乗ってくる乗り物の)車馬の音がうるさい。 ・喧:やかましい。かまびすしい。
※問君何能爾:どうしてそんなことができるのか。 ・問君:君に問う。自問自答である。下って李白にも「山中問答」で「問君何意棲碧山,笑而不答心自閑。」がある。 ・何能:どうして…できるのか。『古詩十九首』之十五に「生年不滿百,常懷千歳憂。晝短苦夜長,何不秉燭遊。爲樂當及時,何能待來茲。愚者愛惜費,但爲後世嗤。仙人王子喬,難可與等期。」とあり、後漢末/魏・王粲の『七哀詩』三首之一「西京亂無象,豺虎方遘患。復棄中國去,委身適荊蠻。親戚對我悲,朋友相追攀。出門無所見,白骨蔽平原。路有飢婦人,抱子棄草間。顧聞號泣聲,揮涕獨不還。未知身死處,何能兩相完。驅馬棄之去,不忍聽此言。南登霸陵岸,迴首望長安。悟彼下泉人,喟然傷心肝。」 とある。後世、南唐・李Uの『子夜歌』に「人生愁恨何能免?銷魂獨我情何限?故國夢重歸,覺來雙涙垂!高樓誰與上? 長記秋晴望。往事已成空,還如一夢中!」とする。
※心遠地自偏:心情、思想状況が超然としていれば(住む)地も辺鄙なところになる。 ・心遠:心の持ちようが超然としていれば。他の意味に「遠大な志」や、「よそよそしい」があるが、ここは「物にこだわらないで、超然と構えている心」を謂う。 ・地自偏:(住む)地も自然と辺鄙なところになる。 ・偏:辺鄙な。後世、白居易はこれに基づき『香鑪峰下新置草堂即事詠懷題於石上』で、「香鑪峯北面,遺愛寺西偏。白石何鑿鑿,C流亦潺潺。有松數十株,有竹千餘竿。松張翠傘蓋,竹倚青琅。其下無人居,惜哉多歳年。有時聚猿鳥,終日空風煙。時有沈冥子,姓白字樂天。平生無所好,見此心依然。如獲終老地,忽乎不知還。架巖結茅宇,壑開茶園。何以洗我耳,屋頭飛落泉。何以淨我眼,砌下生白蓮。左手攜一壺,右手挈五弦。傲然意自足,箕踞於其間。興酣仰天歌,歌中聊寄言。言我本野夫,誤爲世網牽。時來昔捧日,老去今歸山。倦鳥得茂樹,涸魚返C源。舍此欲焉往,人間多險艱。」や、白居易の『雨夜憶元九』「天陰一日便堪愁,何況連宵雨不休。一種雨中君最苦,偏梁閣道向通州。」がある。
※采菊東籬下:東側のまがきのもとで菊を摘む。この句は次の「悠然見南山」と共に人口に膾炙された。 ・采菊:菊を摘む。 ・采=採。『詩經』や漢代の詩でよく使われる。 ・東籬下:東側のまがきの下で。 ・籬:まがき。垣根。
※悠然見南山:(心は)ゆったりとして南山をながめる。『文選』では「悠然望南山」とする。 ・悠然:ゆったりとして。悠々と。 ・南山:ここでは、陶淵明が住んでいた廬山をいう。蛇足だが、陶淵明のいた柴桑は、盧山の北方、現・九江市ではないのか。潯陽・柴桑は長江沿岸ではないのか。本によっては、盧山の南で、北から順に「九江市⇒盧山⇒柴桑」となっているのもあるが、ここは、北から「九江市・柴桑⇒盧山」ではないのか。
※山氣日夕佳:山の様子は夕暮れ時が美しくよい。 ・山氣:山の気配。 ・日夕:夕暮れ。 ・佳:よい。美しい。みめよい。
※飛鳥相與還:飛ぶ鳥が群をなして一塊りになって帰っていく。 ・飛鳥:飛ぶ鳥。 ・相與:いっしょに。あいともに。ここは、飛鳥が群をなして一塊りになって帰っていく様をいうのであって、作者と飛鳥がともに帰途につくということではない。 ・還:かえる。もどる。
※此中有眞意:この(自然の摂理の)中にこそ真実の姿がある。『文選』では「此還有眞意」とする。 ・此中:この(自然の情景の)中にこそ。 ・眞意:真実の姿。
※欲辨已忘言:謂おうとしても、とっくに(謂うべき)言葉を忘れてしまった。辨を字義どおり解釈すると、(自然の摂理を)考え分けようとしても、もはや(謂うべき)言葉を忘れてしまった。言は及ばない。 ・欲辨:説き明かそうとして。 ・辨=辯:言葉をたくましくしてあげつらう。本来、辨と辯は別字であって、辨:考え分ける。区別する。わきまえる。辯:つまびらかにする。わける、となる。字義どおり解釈すると、考え分けようとするが、になる。 ・已:とっくに。すでに。 ・忘言:言う言葉を忘れる。
***********
◎ 構成について
五言。韻式は「AAAAA」。韻脚は「喧偏山還言」で、上平十五刪、上平十四寒等。この作品の平仄は次の通り :
●○●○●,
○○○●○。(韻)
●○○○●,
○●●●○。(韻)
●●○○●,
○○●○○。(韻)
○●●●○,
○●○●○。(韻)
●○●○●,
●●●●○。(韻)
2002.2.16 2.17完 2003.5.14補 11.12 2007.4.23 |
次の詩へ 前の詩へ 陶淵明集メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |
メール |
トップ |