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秋菊有佳色,
露其英。
汎此忘憂物,
遠我遺世情。
一觴雖獨進,
杯盡壺自傾。
日入羣動息,
歸鳥趨林鳴。
嘯傲東軒下,
聊復得此生。
飮酒 其七
秋菊 佳色 有りて,
露に(ぬ)れて 其の英(はなぶさ)を (つ)む。
此れを 忘憂の物に 汎(う)かべ,
我が 遺世の情を 遠(とおざ)く。
一觴 獨り進むと 雖(いへど)も,
杯 盡きて 壺 自ら 傾く。
日 入りて 羣動 息(や)み,
歸鳥 林に趨(おもむ)きて 鳴く。
嘯傲す 東軒の下,
聊(いささ)か 復(ま)た 此の生を 得ん。
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◎ 私感註釈
※陶潜:陶淵明。東晋の詩人。五柳先生と自称し、田園生活と酒をよく詠う。
『古詩源』 『古文眞寶』
※飮酒 其七:このページは「飮酒」の其七の部分である。『昭明文選』では『雜詩・其二』とする。
※秋菊有佳色:秋の菊には、すばらしい趣があり。 *菊は邪気を払うものとして、重陽の節にも用いられるが後出『楚辞』『離騒』で屈原が自分の気節の譬喩としても使っている。 ・秋菊:秋のキク。『楚辞』『離騒』に屈原が老いてゆく自分自身の気節と心情を「非余心之所急。老冉冉其將至兮,恐脩名之不立。朝飮木蘭之墜露兮,夕餐秋菊之落英。苟余情其信以練要兮,長頷亦何傷。」と歌い上げている。 ・有佳色:よい色香をしている。
※露其英:露でうるおったその花びらを摘(つ)む。 ・露:露でうるおす。・:〔いふ;yi4〕まとう。移り香。芳しい。うるおす。 ・:〔てつ;duo1〕ひろいとる。とる。 ・英:はなびら。はなぶさ。
※汎此忘憂物:これを酒に浮かべる。菊酒にする。 ・汎:うかべる。・此:・忘憂物:憂いを消す物で、酒のこと。萱草を指す場合もある。
※遠我遺世情:わたしが世間の俗事を忘れ捨てている(屈折した感情を)一層遠ざけ、忘れさせてくれる。 ・遠:遠ざける。動詞。 ・遺世:世間の俗事を忘れ捨てる。 ・遺:ここは〔ゐ:yi2〕。
※一觴雖獨進:独りで飲んでいるものの。 ・一觴:一杯。觴は、さかづき。 ・獨進:独りで飲んでいる。
※杯盡壺自傾:杯の酒もなくなって、酒壺を傾けて自分で注ぎ。 ・杯盡:杯の酒もなくなる。 ・壺自傾:酒壺を傾けて自分で注ぐ。『歸去來兮辭序』の「引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。」に同じ。
※日入羣動息:日没になったので多くのものの活動がやんで。 ・日入:日没になったので。 ・羣動:多くの人や生けるものの活動。羣=群。後世、白居易は「『自詠』に「朝亦隨群動,暮亦隨群動。榮華瞬息間,求得將何用。形骸與冠蓋,假合相戲弄。但異睡著人,不知夢是夢。」と使う。 ・息:やむ。とまる。
※歸鳥趨林鳴:夕暮れにねぐらに帰る鳥も林に返って、(そこで)鳴いている。 ・歸鳥:夕暮れにねぐらに帰る鳥。 ・趨:(林に)返る。おもむく。
※嘯傲東軒下:東の窓辺で、うそぶきくつろぎ。 ・嘯傲:うそぶきくつろぐ。『歸去來兮辭』に「引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲,審容膝之易安。」「懷良辰以孤往,或植杖而耘。登東皋以舒嘯,臨C流而賦詩。聊乘化以歸盡,樂夫天命復奚疑。」を蹈まえている。 ・東軒下:東ののき、窓辺で。
※聊復得此生:しばし、(天命に順って)この生を過ごそう。前出の「聊乘化以歸盡,樂夫天命復奚疑。」〔聊(ねが)はくば 化に乘じて 以て 盡くるに歸し、 夫(か)の天命を 樂しめば 復(ま)た奚(なに)をか 疑はん。〕 (願わくは、(天地の)変化にあわせて(逆らわずに、)人生の終焉を迎えることとしよう。自分の天命を楽しんでいれば、また どうして疑いをいだくことがあろうか。(与えられている)天命を楽しんでおればよいのだ。)。 ・聊:願わくば。ねがう。しばし。いささか。 ・聊復:いささかまた。語調を整える働きもあろう。
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◎ 構成について
韻式は「AAAAA」。韻脚は「英情傾鳴生」で、下平八庚。この作品の平仄は次の通り 。「趨」のここの用法では○。
○●●○●,
●●●○○。(韻)
○●●○●,
●●○●○。(韻)
●○○●●,
○●○●○。(韻)
●●○●●,
○●○○○。(韻)
○●○○●,
○●●●○。(韻)
2003. 5.16 5.17完 2004. 3. 9補 2011.10.24 |
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