| 人生愁恨何能免？ 銷魂獨我情何限？ 故國夢重歸， 覺來雙涙垂！ 高樓誰與上？ 長記秋晴望。 往事已成空， 還如一夢中！  |
人生愁恨 何ぞ能く免れん？
銷魂 獨 り我 情 何ぞ限りあらん？
故國 夢に重 ねて歸れど，
覺 め來りて雙涙 垂る！
高樓誰 と與 にか 上りし？
長 へに記す秋晴 の望め。
往事 已 に空 と成り，
還 一夢の中の如し ！
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私感注釈
※李煜：南唐後主。この作品も亡国後、李煜が
京にて臣虜となった時の作。
※子夜歌：子夜という女性が作った歌として、情を吐露して詠いあげたもの。ここでは、詞牌の一で、『菩薩蛮』ともいう。書に因っては、この作品を『菩薩蛮』としているものもある。双調換韻。詳しくは下記「構成について」を参照。
※人生愁恨何能免： ・愁恨：うらめしさ。 ・何能：なんぞ よく。どうして…できようか。…でありえない。なんぞよく…せんや。という反語の働きをしている。
※銷魂独我情何限： ・銷魂：悲しんで魂が消える。気が滅入る。 ・銷＝消。「銷」は金属をとかすこと。同じく李煜の『楊柳枝』には「到處消魂感舊遊
」と「消魂」の方が使われている。 ・獨：独りぼっちで。 ・何限：なんぞ かぎりあらん。どうして限りがあろうか。（いや、ない）反語になっている。
※故国夢重帰： ・故國：故郷の国。ここでは南唐。 ・重：かさねて。ふたたび。この意味の場合は○となる。（なお、「重（おも）い」は●）。 ・歸：かえる。本来戻るべき所にもどること。
※覚来双涙垂： ・來：時間の経過、方向性を示しているのか。 ・覺來-：めがさめてくる（と…）。 ・雙涙：ふたつの涙。両眼からこぼす涙。
※高楼誰与上： ・高樓：高殿。 ・誰與：上古漢語では、「誰」が賓語等の場合、「與誰」とはならない。 ・誰與上：誰と上っただろうか、ひとりぼっちだった。 ・上：のぼる。動詞。
※長記秋晴望： ・長：とこしえに。 ・記：（古・現代語）おぼえている。 ・長記：（あの南唐時代の麗しい秋晴れの日々のすばらしい生活を）永遠に忘れない。 ・望：ながめ。けしき。この字は両韻で平声と去声があるが、同じ意味とされる数少ない例外。なお、現代語では去声。
※往事已成空： ・往事：昔。ここでは南唐の宮廷生活を指す。 ・已：とっくに。すでに。 ・成空：空となる。過去の栄華が儚く消え去ったこと。
※還如一夢中：故国に帰っている夢から覚めたが、現実のこの空しさに思いを至すと、まだ夢を見ているかのようだ。 ・還：なお、また。（現代語でも多用）。
◎ 構成について
双調。四十四字。換韻。菩薩蛮ともいう。韻式は「aaBB ccDD」。
◎ 菩薩蛮 （子夜歌ともいう）
四十四字（双調） 換韻
平平仄仄平平仄（a仄韻），
平平仄仄平平仄（a仄韻）。
仄仄仄平平（B平韻），
仄平平仄平（B平韻）。 ||
平平平仄仄（c仄韻），
仄仄平平仄（c仄韻）。
仄仄仄平平（D平韻），
仄平平仄平（D平韻）。
| ２０００． ５．１０ ５．１１ ５．１３完 ９． ８補 ２０２０．１０．２３ |
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