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道喪向千載,
人人惜其情。
有酒不肯飮,
但顧世間名。
所以貴我身,
豈不在一生。
一生復能幾,
倏如流電驚。
鼎鼎百年内,
持此欲何成。
飮酒 其三
道 喪(うし)はれて 千載に 向(なんな)んとし,
人人 其の情を 惜む。
酒 有るも 肯(あ)へては 飮まず,
但だ 顧(かへり)みるは 世間の名。
我が身を 貴ぶ 所以(ゆゑん)は,
豈(あ)に 一生に 在(あ)らずや。
一生 復(ま)た 能(よ)く 幾(いくば)ぞ,
倏(はや)きこと 流電の驚(ひらめ)くが 如し。
鼎鼎(ていてい)たり 百年の内,
此(こ)れを持して 何をか 成さんと欲する。
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◎ 私感註釈
※陶潜:陶淵明。東晋の詩人。五柳先生と自称し、田園生活と酒をよく詠う。
※飮酒 其三:このページは「飮酒」の其三の部分である。
※道喪向千載: ・道喪:古代の聖賢の教えが失われてしまってから。 ・喪:動詞の意。平声。但し、この意味=動詞の場合、現代語では平声から去声に変わる。 ・向千載:千年にもなろうとしている。白居易もこれを元にして「富貴人所愛,聖人去其泰。所以致仕年,著在禮經内。玄元亦有訓,知止則不殆。二疏獨能行,遺跡東門外。C風久銷歇,追此向千載。」と詠っている。 ・向:むかう。なろうとしている。なんなんとす(垂んとす)と訓んでいる名訳があり、日本語としてのリズムも素晴らしいので、使わせていただいた。今、どなたから始められたのか分からないので、お名前は書けないのですが。 ・千載:千年。
※人人惜其情:だれもが、本当の気持ちを出し惜しみする(ようになった)。 ・人人:だれも(が)。 ・惜:出し惜しみをする。おしむ。 ・其情:本当の気持ち。 ・其:語調をとる働きもしている。
※有酒不肯飮:酒があっても、積極的には飲もうとしない。曹操の『短歌行』「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」の逆を云う。 ・有酒:酒があっても。 :不肯:積極的にはしない。蛇足になるが、「肯不」となると、反語になる。 ・飮:酒を飲む。
※但顧世間名:ただ世間体ばかり気にしている。 ・但顧:ただおもんばかるのは…だ。 ・世間名:世間での評判。世間体。
※所以貴我身:(人々が)我が身を大事にする根拠(わけ)は、(人間の有限の一生の内にこそあるのではないか。) ・所以:ゆえん。ゆゑん。 ・貴:たっとぶ。動詞としての用法。
※豈不在一生:(人々が我が身を大事にする根拠(わけ)は、)人間の(有限の)一生の内にこそ在るのではないか。 ・豈:…ではないのか。あに…(ん)や。反語。 ・不在一生:生涯の内にこそあるのではないか。 ・一生:今生。この一生。
※一生復能幾:一生は、また どれだけ いられるというのだ。前出『短歌行』「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。」に同じ。 ・復:いったい。必ずしも「再び」の意で使われない。先の句で長い時間の流れを述べ、その後に「復+幾」という慨嘆の言葉が来る。『歸去來辭』でも「「已矣乎,寓形宇内復幾時。」とし、劉長卿は「永日空相望,流年復幾何。」と。韋應物は「州舉年年事,還期復幾何。」と。張説は、「百歳屡分散,歡言復幾何。」と。孟浩然の「余是乘槎客,君爲失路人。平生復能幾,一別十餘春。」李白では「歳物忽如此,我來復幾時。」や「在世復幾時,倏如飄風度。」とある。特に最後のものは、明らかに陶潜の『雜詩十二首』(人生無根蒂,飄如陌上塵。)に基づいている。 ・能幾:どれだけ いられるのだ。 よく いくばくぞ。
※倏如流電驚:一瞬のきらめきで、雷鞭のように素速いものである。 ・倏:〔しゅく;shu1〕(光が)きらめくさま。たちまち。急速なさま。 ・倏如:倏として…の如し。「如」は状態を表す形容詞の後に付いて「…如」という語を造る。倏如として。『雜詩十二首其一』(人生無根蒂)中の「飄如」に同じ。「然」での「…然」の働きに同じ。 ・流電:いなづま。後に李白も『對酒行』で「浮生速流電,倏忽變光彩。」として使っている。 ・驚:はげしい。急速に過ぎて行くさま。=驚雷、驚霆のこと。雷鳴の音の激しさと、稲光の急激なさまを云う。
※鼎鼎百年内:速やかに過ぎ去る(人生は、)長くても百年以内(である)。 ・鼎鼎:〔ていてい;ding3ding3〕年月が速やかに過ぎ去る形容。 ・百年内:(人の一生である)百年以内(である)。『飮酒』其十五には「貧居乏人工,灌木荒余宅。班班有翔鳥,寂寂無行迹。宇宙一何悠,人生少至百。歳月相催逼,鬢邊早已白。若不委窮達,素抱深可惜。」 とある。
※持此欲何成:これ(世間体ばかり気にしていること)を維持して、一体、何を成し遂げたいというのか。 ・持此:これを維持して。 ・此:前出の「有酒不肯飮,但顧世間名。」という態度。世間体ばかり気にしていること。 ・欲何成:なにを成し遂げようというのか。何を成し遂げたいというのか。
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◎ 構成について
韻式は「AAAAA」。韻脚は「情名生驚成」で、下平八庚。この作品の平仄は次の通り :
●○●○●,
○○●○○。(韻)
●●●●●,
●●○○○。(韻)
●●●●○,
●●●●○。(韻)
●○●○●,
●○○●○。(韻)
●●●○●,
○●●○○。(韻)
2003.5.6 5.7 5.8 |
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