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靑松在東園,
衆草沒其姿。
凝霜殄異類,
卓然見高枝。
連林人不覺,
獨樹衆乃奇。
提壺撫寒柯,
遠望時復爲。
吾生夢幻間,
何事紲塵羈。
飮酒 其八
靑松 東園に 在れど,
衆草 其の姿を 沒す。
凝霜 異類を 殄(ほろぼ)さば,
卓然として 高枝を 見(あらは)す。
林に 連なれば 人 覺(さと)らざるも,
獨樹にして 衆 乃(すなは)ち 奇とす。
壺を 提(さ)げて 寒柯(かんか)を 撫(な)で,
遠望して 時に 復(ま)た 爲(な)す。
吾が生 夢幻の間,
何事ぞ 塵羈(ぢんき)に紲(つな)がる。
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◎ 私感註釈
※陶潜:陶淵明。東晋の詩人。五柳先生と自称し、田園生活と酒をよく詠う。
※飮酒其八:松の木を詠うが、この松とは作者自身の姿でもあろう。 *このページは「飮酒」の其八の部分。『昭明文選』には、この部分はない。ここは『歸去來兮辭』の後半「瞻衡宇,載欣載奔。僮僕歡迎,稚子候門。三逕就荒,松菊猶存。攜幼入室,有酒盈樽。引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲,審容膝之易安。園日渉以成趣,門雖設而常關。策扶老以流憩,時矯首而游(/遐)觀。雲無心以出岫,鳥倦飛而知還。景翳翳以將入,撫孤松而盤桓。 歸去來兮,請息交以絶遊。世與我而相遺,復駕言兮焉求。悅親戚之情話,樂琴書以消憂。農人告余以春及,將有事於西疇。或命巾車,或棹孤舟。既窈窕以尋壑,亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮,泉涓涓而始流。羨萬物之得時,感吾生之行休。」に似た主旨の詩。
※靑松在東園:青い松が東の畑に生えているが。 ・靑松:(冬の霜などの厳しい状況にも耐えている)青い松。作者の生き様を表しているものである。『歸去來兮辭』でいうところの「撫孤松而盤桓。」になる。 ・在:…にある。 ・東園:東側の畑。
※衆草沒其姿:雑草が、その(松)の姿を隠してしまっている。 ・衆草:多くの草。雑草。 *ここでは、陶淵明の周囲の凡愚を指している。 ・沒:姿を隠す。 ・其姿:松の(立派な)姿。
※凝霜殄異類:霜が降りて、外の植物を枯らし尽くした時に。『論語』子罕篇の「歳寒,然後知松柏之後凋也。」晉・陶潛の『飮酒二十首』其八「靑松在東園,衆草沒其姿。凝霜殄異類,卓然見高枝。連林人不覺,獨樹衆乃奇。提壺撫寒柯,遠望時復爲。吾生夢幻間,何事紲塵羈。」 とあり、劉長卿は『尋盛禪師蘭若』で「秋草黄花覆古阡,隔林何處起人煙。山僧獨在山中老,唯有寒松見少年。」と使う。 ・凝霜:降りて凝り固まった霜。蔡文姫の七言『悲憤詩』に「陰氣凝兮雪夏零。」とある。 ・殄:〔てん;tian3●〕絶える。尽きる。滅ぼす。前出『悲憤詩』に「宗族殄兮門戸單」とある。 ・異類:たぐいを異にするもの。種類の異なったもの。普通と違う異様なたぐい。人間以外の禽獣の類。ここでは、松以外の植物のことをいう。
※卓然見高枝:ひとり抜きん出た、高く秀でた木の枝が(姿を)現す。 ・卓然:ひとり抜きん出ているさま。ひときわ優れているさま。 ・見:〔げん;xian4●〕顕す。見せる。出現する。=現。 ・高枝:高く秀でた木の枝。高らかな枝。
※連林人不覺:林のところにあれば、人々は、(その優れていることに)気づかないが。 ・連林:林の中にある。林と共にある。林のところにある。 ・人:(外の)人。 ・不覺:わからない。目立たない。
※獨樹衆乃奇:木が一本だけになって、ようやくやっとのことで、民衆は、めずらしいものだと気づく。 ・獨樹:一本だけになっている木。 ・衆:多くの人。民衆。衆庶。 ・乃:ようやく。やむなく。そこで。すなわち。接続詞。 ・奇:めずらしい。かわったもの。
※提壺撫寒柯:酒徳利をぶら下げて、松の寂しげな冬の枝を(共感の思いで)撫でさする。『歸去來兮辭』「撫孤松而盤桓。」にあたる。 ・提壺:酒壷(徳利)を手にぶら下げて。酒徳利を持って。 ・撫:(同感の思いを抱いて)なでさする。「撫」を「挂」ともする。その場合は、掛ける、の意。 ・寒柯:葉が落ちた寒々しい木の枝。
※遠望時復爲:時々、何度か遠くまで眺めやり、人生の来(こ)し方と行く末を思い至らせる。「時復爲 遠望」の意で、前出『歸去來兮辭』「策扶老以流憩,時矯首而游觀。」になる。 ・遠望:遠方をのぞみ見ること。遙かに見渡すこと。遠い過去を思いやり、将来の見通しをつけること。 ・復:また。 ・爲:なす。
※吾生夢幻間:わたしの人生は、夢かまぼろしかのように儚(はかな)い(のに)。 ・吾生:わたしが生きている間。わたしの人生。 ・夢幻間:夢かまぼろしかのように儚(はかな)いこと。前出『歸去來兮辭』「已矣乎,寓形宇内復幾時。」に該る。
※何事紲塵羈:(それでもなお、)どうして、世間と(煩わしい)きづなでもって繋ぎとめるのか。(自由であるべきだ)。どうして、世間の枠にとらわれるのだ。(その必要はない)。 ・何事:どうして。 ・紲:〔せつ;xie4●〕つなぐ。きずなでつなぐ。しばる。 ・塵羈:〔ぢんき;chen2ji1○○〕世俗の。『歸園田居 五首』其一「少無適俗韻,性本愛邱山。誤落塵網中,一去三十年。」の用法に同じ。 ・塵:世俗の。俗世間の。 ・羈:〔き;ji1○〕たづな。きずな。つなぎとめる綱。後世、中唐・韓愈は『山石』で「山石犖确行徑微,黄昏到寺蝙蝠飛。升堂坐階新雨足,芭蕉葉大支子肥。僧言古壁佛畫好,以火來照所見稀。鋪床拂席置羹飯,疏糲亦足飽我飢。夜深靜臥百蟲絶,清月出嶺光入扉。天明獨去無道路,出入高下窮煙霏。山紅澗碧紛爛漫,時見松櫪皆十圍。當流赤足蹋澗石,水聲激激風吹衣。人生如此自可樂,豈必局束爲人鞿。嗟哉吾黨二三子,安得至老不更歸。」と使う。 ・紲羈:つなぎとめる。
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◎ 構成について
韻式は「AAAAA」。韻脚は「姿枝奇爲羈」で、平水韻でいえば、上平四支。この作品の平仄は次の通り 。
○○●○○,
●●●○○。(韻)
○○●●●,
●○●○○。(韻)
○○○●●,
●●●●○。(韻)
○○●○○,
●◎○●○。(韻)
○○●●○,
○●●○○。(韻)
2004.8.10 |
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