寇準江南春詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 kouzhun

　　　　　　　　　　　　　　北宋　寇準
江南春

波渺渺，
柳依依。
孤村芳草遠，
斜日杏花飛。
江南春盡離腸斷，
蘋滿汀洲人未歸。

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江南春

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
波は　渺渺として，
柳は　依依たり。
孤村　　芳草　遠く，
斜日に　　杏花　飛ぶ。
江南　　春　盡きんとして　　離腸　斷じ，
蘋は　汀洲に滿てども　　人　未だ歸へらず。

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◎　私感註釈

※寇準：北宋の大臣、宰相。剛直な人となりで直言する。淵の盟を結び、和議を成立させた功労者。字は平仲。諡は忠愍。９６１年（建隆二年）～１０２３年（天聖元年）。華州下の人。１００４年（景徳元年）宰相の時、契丹（遼）が軍を南下させた。宋の宮中が色を喪い、南渡西遷を退け、寇準は真宗に親征を強く促した。州に至って遼軍に打撃を与えた。淵の盟で歳幣絹二十万疋、銀十万両で和議を成立させた。後、讒言されて、宰相を追われ、陝州を治めた。晩年、宰相に復し、莱国公に封ぜられる。やがてまた、排斥されて雷州の司戸参軍に左遷されて、任地で没した。

※江南春：詞牌の一。『秋風清』と一調二体となり、ほぼ同一。詳しくは下記「構成について」を参照。梁朝・柳惲の『江南曲』に「汀洲採白蘋，落日江南春。洞庭有歸客，瀟湘逢故人。故人何不返，春花復應晩。不道新知樂，只言行路遠。」とある。後世、これらの作品を基にして、晏幾道は『鷓鴣天』「醉拍春衫惜舊香，天將離恨惱疏狂。年年陌上生秋草，日日樓中到夕陽。雲渺渺，水茫茫。征人歸路許多長。相思本是無憑語，莫向花箋費涙行。」を作り、明・高啓は『送呂卿』「遠汀斜日思悠悠，花拂離觴柳拂舟。江北江南芳草遍，送君併得送春愁。」を作ったとも謂える。もっとも、この作品に出てくる「波」「渺渺」「柳」「依依」「孤村」「芳草」「遠」「斜日」「杏花」「飛」「江南」「春盡」「離腸斷」「蘋」「滿」「汀洲」「人」「未歸」などの詞語は、特殊なものではなく、極めてよく使われるもので、関係は定かではない。作者は、同名の『江南春』「杳杳煙波隔千里，白蘋香散東風起。日落汀洲一望時，柔情不斷如春水。」がある。

※波渺渺：波面はてしなくけむり。　・渺渺：〔べうべう；miao3miao3●●〕水のはてしなくけむるさま。遥かでかすかなさま。遥かで遠い。果てしない。この作品と同義には、宋・蘇軾の『水調歌頭』快哉亭作「落日繍簾卷，亭下水連空。知君爲我、新作窗戸濕靑紅。長記平山堂上，欹枕江南煙雨，渺渺沒孤鴻。認得醉翁語，山色有無中。」がある。

※柳依依：ヤナギはしなやかに揺れている。　・依依：〔いい；yi1yi1○○〕しなやかなさま。名残惜しく離れにくいさま。ここは前者の意。白居易『楊柳枝』其三に「依依嫋嫋復青青，勾引清風無限情。白雪花繁空撲地，綠絲條弱不勝鶯。」がある。

※孤村芳草遠：ぽつんと離れてある聚落に（春の）草花が遥か生えている。　・孤村：離れている村落。ぽつんと離れてある聚落。　・芳草遠：（春の）草花が遥か遠くまで生えている。

※斜日杏花飛：夕陽にアンズの花びらが飛び。　*アンズは春に花を著つけるので、花びらが飛ぶということは、春が過ぎ去ろうとしていることを表す。　・斜日：夕陽。前出・寇準の『江南春』の青字「日落」に同じ。　・杏花：アンズの花。

※江南春盡離腸斷：江南の（のどかな）春の季節が尽きようとして別離の情も、はらわたが断ち切られる思いだ。　・江南：中国長江下流地帯の南部。　・春盡：春の季節が終わる。　・離腸斷：別離の思いの悲しみが甚だしいこと。

※蘋滿汀洲人未歸：浮き草が砂州に満ちてきて、（新たな気節に移ろうとしているのに）あなたは、まだ帰ってこない。　・蘋：〔ひん；pin2（ping2）○〕浮き草。デラシネ。蘋≒萍。「汀洲採白蘋，日落江南春。…」と相手を想い慕う詞と関係があるかも知れない。前出・温庭『夢江南』其二「斜暉脈脈水悠悠。腸斷白蘋洲。」。　・滿：いっぱいになる。　・汀洲：〔ていしう；ting1zhou1○○〕砂州。中州。前出・寇準の『江南春』の黒字部分に同じ。　・人未歸：（恋しくて、大切な）人はまだ帰ってこない。

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◎　構成について

単調。三十字。韻式は「ＡＡＡ」。韻脚は「依飛歸」で、詞韻第三部平声五微。

　　　○●，
　　　●○○。（韻）
　　　○○●●，
　　　○●●○○。（韻）
　　　○○●○○●，
　　　●○○●○。（韻）