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蘭若生春夏,
芊蔚何靑靑。
幽獨空林色,
朱蕤冒紫莖。
遲遲白日晩,
嫋嫋秋風生。
歳華盡搖落,
芳意竟何成。
感遇三十八首 其二
蘭若 春夏に生じ,
芊蔚として 何ぞ青青たる。
幽獨 空林の色,
朱蕤 紫莖を冒す。
遲遲たる 白日の晩,
嫋嫋として 秋風 生ず。
歳華 盡く搖落し,
芳意 竟に何をか成さん。
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◎ 私感註釈
※陳子昂:〔ちんすがう;chen2zi3ang2〕陳子昂 (661年~702年)初唐の雄渾な写実主義の詩歌を提倡した。少年期は遊んで過ごし、十八歳の時にまだ、文字が読めなかったという。以後機会があって郷校に学び、発憤努力して、進士に及第した。則天武后に認められ、契丹征討に、武攸宜の参謀として従軍する。征討軍は、惨敗を喫するが、貴族出身でない陳子昂の献策は、ことごとく容れてもらえずに、彼は失意の裡にいた。その時の作である。
※感遇三十八首:これは其の二になる。ついつい、我が国の『万葉集』「白珠者 人尓不所知 不知友縱 雖不知 吾之知有者 不知友任意」(白珠(しらたま)は人に知らえず知らずともよし知らずとも吾(あれ)し知れらば知らずともよし)を聯想してしまう。
※蘭若生春夏:蘭若は、春から夏にかけて生え。 ・蘭若:「蘭」と「若」の二種の香草の名。ランとカキツバタ。 ・蘭:フジバカマ。菊科の草本で、秋に薄紫の花を著ける。『楚辞』「離騒」に「朝飮木蘭之墜露兮,夕餐秋菊之落英。」唐・孟郊の『贈別崔純亮』に「鏡破不改光,蘭死不改香。始知君子心,交久道益彰。」
と、気節の高さを表すものとしても使われる。 ・若:「杜若」のことで、ヤブミョウガ。ヤブショウガ。アオノクマタケラン。カキツバタ。オオカンアオイ。等の香草。 ・生:生えてくる。 ・春夏:春から夏にかけて。
※芊蔚何青青:生い茂るさまは、何と青々と茂っていることか。 ・芊蔚:〔せんゐ;qian1wei4○●〕草木の生い茂っているさま。 ・何:なんと。感嘆を表す。 ・青青:草木が青々としているさま。青青=菁菁。
※幽独空林色:(蘭若は)ひとりひっそりと咲くが、林の中に咲いている(他の)花々の顔色を空しいものとしてしまっている。 *蘭若は目立たないものの、他の花に超越した存在であるということ。 ・幽獨:(蘭若の)ひとりひっそりとしているさま。≒孤高。 ・空:むなしいものとする。 ・林色:林の中に咲いている花々。木々の茂みの中に咲いている花々。
※朱蕤冒紫茎:赤く垂れ下がった花は、紫色の茎のところまで、覆い被さってきている。 ・朱蕤:〔しゅずゐ;zhu1rui2○○〕赤く垂れ下がった花。 ・:〔ずゐ;rui2○〕草木の花や葉が垂れ下がるさま。垂れ下がった花。 ・冒:おおいかぶさる。おかす。 ・紫莖:紫色の茎。
※遅遅白日晩:ゆったりと長閑(のどか)で長い春の一日も、太陽は暮れて。 ・遲遲:〔ちち;chi2chi2○○〕(春の一日が)ゆったりとのどかで長いさま。のろのろしておそいさま。ためらうさま。 ・白日:照り輝く太陽。白昼。 ・晩:日が暮れる。また、おそい。前出の「遅」が、のろのろして動作がゆっくりとしているさまなのに対して、「晩」は、一日の内の時間的に後になることの意。ここでは、日が暮れることをいう。
※嫋嫋秋風生:風がそよそよと秋風が吹き始めて。 ・嫋嫋:〔でうでう;niao3niao3●●〕風がそよそよと吹くさま。また、枝などの揺れるさま。しなやかにまといつくさま。 ・秋風:『古歌』「秋風蕭蕭愁殺人,出亦愁,入亦愁。座中何人,誰不懷憂。令我白頭。胡地多飆風,樹木何修修。離家日趨遠,衣帶日趨緩。心思不能言,腸中車輪轉。」など。 ・生:(風が)たつ。吹き始める。
※歳華尽揺落:春に花が咲いて秋に凋みゆく草は、盡(ことごと)く(秋の季節になって草木の葉が)凋(しぼ)んで、風で揺れおちた。 ・歳華:春に花が咲いて秋に凋み行く草。春の景色。また、年月。歳月。光陰。春。春の景色。ここは、年月の意と年ごとに咲いては散ってゆく花(華)ことの双方の意になる。 ・華:日月の光。また、花。 ・盡:ことごとく。 ・搖落:〔えうらく;yao2luo4◎●〕(秋の季節になって草木の葉が)凋(しぼ)んで、風で揺れおちること。草木の葉がひらひらと散る。
※芳意竟何成:春の趣き(人の意志)は、結局何をなしとげられたのだろうか。 ・芳意:春の趣き。 ・竟:〔きゃう;jing4●〕ついに。とうとう。つきる。 ・何成:何をかなさん。詰(なじ)る雰囲気がある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「青莖生成」で、平水韻上平十四寒。この作品の平仄は次の通り。
○●○○●,
○●○○○。(韻)
○●◎○●,
○○●●○。(韻)
○○●●●,
●●○○○。(韻)
●○●○●,
○●●○○。(韻)
2005.5.11
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