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秋風蕭蕭愁殺人,
出亦愁,
入亦愁。
座中何人,
誰不懷憂。
令我白頭。
胡地多飆風,
樹木何修修。
離家日趨遠,
衣帶日趨緩。
心思不能言,
腸中車輪轉。
古歌
秋風 蕭蕭として 人を愁殺し,
出づるも も亦た 愁へ,
入るも 亦た 愁ふ。
座中 何人(なんぴと)か,
誰(たれ)か 憂ひを 懷(いだ)かざる。
我をして 白頭ならしむ。
胡地に 飆風(へうふう) 多し,
樹木 何ぞ 修修たる。
家を離れ 日びに 遠きに 趨(おもむ)き,
衣帶 日びに 緩(ゆる)きに 趨く。
心思 言ふ 能(あた)はず,
腸中 車輪 轉ず。
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◎ 私感註釈
※秋風蕭蕭愁殺人:秋風がもの寂しく吹いて、人の気持ちを愁いの極みにさせる。秋瑾の『絶命詞』とされる「秋雨秋風愁殺人!」(或いは「秋風秋雨愁殺人!」)は、ここからきている。 ・蕭蕭:風がもの寂しく吹くさま。本来は、深く静かことになるが、屡々風の形容として使われる。『古詩十九首』の十四に「去者日以疎,來者日以親。出郭門直視,但見丘與墳。古墓犁爲田,松柏摧爲薪。白楊多悲風,蕭蕭愁殺人。思還故里閭,欲歸道無因。」とある。この「蕭蕭愁殺人」の「蕭蕭」は吹く風の形容で、燕の刺客荊軻の『易水歌』にも「風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還。」として使われている。 ・愁殺:〔動詞+殺〕となる接尾辞で、意味を強める働きをする。「忙殺」「笑殺」等の「殺」と同じ。前出「白楊多悲風,蕭蕭愁殺人。」の用法に同じ。
※出亦愁:出てはまた愁えて。 ・出:でる。後出の「入」も入るの意だが、どこからの出入りか、また、何の出入りかも不明。ただ、次の「座中何人」の句から、屋内と読みとれ、家からの出入りとも推測できる。 ・亦:…もまた。 ・愁:うれえる。うれえさせる。後出の「懷憂」の「憂」もうれえる意で、同様に「うれうる」と読むが、「憂」は心を痛めて気遣うことで、「愁」は哀しくもの寂しいことになる。
※入亦愁:入れば、(入ったで)また愁える。
※座中何人:同席のどんな人が。 ・座中:同じ席にいる者。 ・何人:なんぴと。どんな人。
※誰不懷憂:一体だれが、憂いをいだかないものだろうか。 ・誰不:だれが…しないものだろうか。みんな…をする。 ・懷憂:憂いをいだく。
※令我白頭:私を白髪頭にさせた。 ・令我:われをして……しむ。 ・令:使役を表す。 ・白頭:白髪頭。ここでは、「白髪頭になる」という動詞として使われている。
※胡地多飆風:夷狄の地ではつむじ風が多く。 ・胡地:北方の夷狄の地。中国西部や北部を指す。 ・飆風:〔へうふう;biao1feng1○○〕つむじ風。荒い風。
※樹木何修修:樹木は、なんぞ修修と茂り。 ・何:なんぞ。 ・修修:(樹木が)大きくなるさま。茂るさま。或いは、樹間を吹き抜ける風の音のさまともいう。
※離家日趨遠:家を出てより、日毎により遠くの方へ向かっており。 ・離家:家を出る。 ・日:日々に。日毎に。日増しに。 ・趨:向かう。おもむく。 ・遠:(家のある所より)とおく。
※衣帶日趨緩:(旅の疲れから、体はますます痩せて)衣服のオビは、日ごとに緩やかになっていく。この句を基にして、『古詩十九首』之一「行行重行行,與君生別離。相去萬餘里,各在天一涯。道路阻且長,會面安可知。胡馬依北風,越鳥巣南枝。相去日已遠,衣帶日已緩。」が出来た。後世、北宋・柳永は『蝶戀花』で「佇倚危樓風細細,望極春愁,黯黯生天際。草色煙光殘照裏,無言誰會憑欄意。 擬把疏狂圖一醉,對酒當歌,強樂還無味。衣帶漸ェ終不悔,爲伊消得人憔悴。」 と使う。 ・衣帶:衣服のオビ。 ・趨緩:緩やかになっていく。
※心思不能言:思いを言葉で言い表すことができない(ものの)。 ・心思:こころ。思い。心情。 ・不能言:言い表すことができない。
※腸中車輪轉:はらわたの中では、車輪が回るように、(思いが渦を巻いている)。樂府・雜曲歌辭の『悲歌』「悲歌可以當泣,遠望可以當歸。思念故ク,鬱鬱。欲歸家無人,欲渡河無船。心思不能言,腸中車輪轉。」に、共通のものである。 ・腸中:はらわたの中。 ・車輪轉:車輪が回るような状態の感情の表現。
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◎ 構成について
換韻。韻式は、ややこしい。交韻もあるか。
秋風蕭蕭愁殺人,
出亦愁,
入亦愁。
座中何人,
誰不懷憂。
令我白頭。
胡地多飆風,
樹木何修修。
離家日趨遠,
衣帶日趨緩。
心思不能言,
腸中車輪轉。
この作品の平仄は、次の通り。
○○●●○●○,(韻)
●●○,(韻)
●●○。(韻)
●○●●,
○●○○。(韻)
●●●○。(韻)
○●○○○,
●●○○○。(韻)
○○●●●,
○●●●●。(韻)
○○●○○,
○○○○●。(韻)
2003.9.25 9.27完 2007.3.21補 |
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