落花紛紛雪紛紛, 踏雪蹴花伏兵起。 白晝斬取大臣頭, 噫時事可知耳。 落花紛紛雪紛紛, 或恐天下多事兆於此。 |
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無題
落花 紛紛 雪 紛紛,
雪を踏み 花を蹴(け)りて 伏兵 起る。
白晝 斬り取る 大臣の頭(かうべ),
噫(ああ) 時事 知る 可(べ)きのみ。
落花 紛紛 雪 紛紛,
或ひは 恐る 天下の多事 此(ここ)に兆(きざ)すを。
◎ 私感註釈 *****************
※村上佛山:幕末〜明治初頭の文人。文化七年(1810年)〜明治十二年(1879年)豊前の人。字は大有。
※無題:桜田門外の変を詠ったものだが、憚ることがあっての無題。李商隱の「無題」とは大きく異なる。桜田門外の変は、安政七年(1860年)三月三日上巳の節会の際、江戸城桜田門外で、大老・井伊直弼が水戸、薩摩の浪士ら十八名によって殺害された事件。直弼が勅許を待たずに日米修好通商条約に調印したことや、尊王攘夷派に対して安政の大獄などの苛烈な弾圧政策をとったことなどが起因した。
※落花紛紛雪紛紛:散りゆく花が乱れ散り、雪が乱れ飛ぶ。 ・落花:散りゆく花。桜田門外の変は上巳の節会の登城の際に起こった。旧暦三月三日は落花の時節である。 ・紛紛:〔ふんぷん;fen1fen1○○〕まじり乱れるさま。ごたつくさま。乱れ散るさま。
※踏雪蹴花伏兵起:雪を踏みしだき、(散る)花びらを蹴散らして、竊かに隠れ伏していた浪士が起ち上がった。 ・踏雪:雪を踏みしだく。当日は降雪。 ・蹴花:花びらを蹴散らす。蹶起の浪士の意気盛んなさまを表現する。 ・蹴:〔しう;jiu4●〕ける。 ・伏兵:敵の不意を襲って撃つために、竊かに隠れ伏している兵。 ・起:起ち上がる。蹶起する。
※白昼斬取大臣頭:白昼堂々と大老の首級を取った。 ・白晝:〔はくちう;bai2(bo2)zhou4●●〕真っ昼間。 ・斬取:切り取る。 ・大臣:最上級の臣下。大老である井伊直弼を指す。 ・頭:首級。井伊直弼の首は浪士によって、取られた。
※噫時事可知耳:ああ、世の中の出来事は知っておくべきことではあるが。 ・噫:〔いき;yi1xi1○○〕ああ。悲しみまたは、歎息しての感嘆詞。 ・時事:その時その時に起こったこと。昨今のできごと。今の社会的な出来事。 ・可知耳:知っておくことではある。作者は、事件に関わりがないことを言明している。 ・可知:知っておくべきである。 ・耳:のみ。…だけ。…ばかり。句末に附く限定を表す助辞。
※落花紛紛雪紛紛:落花も雪も、忙(せわ)しなく乱れ飛ぶ(が)。
※或恐天下多事兆於此:もしや、このことが天下の大変事の予兆ではないのか。もしや、天下の大乱がここに兆しているのではなかろうか。 ・或恐:ひょっとして。もしかすれば…なのかもしれない。あるいは…になるのかもしれない。唐・崔の『長干曲』「君家何處住,妾住在塘。停船暫借問,或恐是同ク。」とある。 ・天下:世の中。世間。この国全部。国中。世界。 ・多事:多くの変事があること。事件が多く世間が穏やかでないこと。 ・兆於此:この事件にその兆(きざ)しが現れて見える。 ・兆:〔てう;zhao4●〕しるしが現れる。きざす。
◎ 構成について
韻式は「aaa」。韻脚は「起耳此」で、平水韻上声四紙。次の平仄は、この作品のもの。
●○○○●○○,
●●●○●○●。(韻)
●●●●●○○,
○○○●●○●。(韻)
●○○○●○○,
●●○●○●●○●。(韻)
平成17.9.17 |
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