鄱陽寄家處,
自別掩柴扉。
故里人何在,
滄波孤客稀。
湖山春草遍,
雲木夕陽微。
南去逢迴雁,
應憐相背飛。
******
舍弟の 鄱陽の居に 之(ゆ)くを 送る
鄱陽(はやう)は 寄家(きか)の處,
別れて自(よ)り 柴扉(さいひ)を 掩ふ。
故里 人 何(いづ)くにか在る,
滄波 孤客(こかく) 稀(まれ)なり。
湖山 春草 遍(あまね)し,
雲木 夕陽 微(かすか)に。
南に去りて 迴雁(くゎいがん)に 逢(あ)はば,
應(まさ)に憐むべし 相(あ)ひ背(そむ)きて 飛ぶを。
◎ 私感註釈 *****************
※劉長卿:盛唐の詩人。709年?(景龍年間?)〜780年?(建中年間?)。字は文房。河間(現・河北省)の人。進士に合格して官吏となるも下獄、左遷された。ために、詩には失意の情感や離乱を詠うものが多い。五言詩に優れていることから「五言(の)長城」と称された。
※送舍弟之鄱陽居:弟が、鄱陽(はよう)にあるすまいに行くのを見送った。 ・送:見送る。 ・舍弟:実の弟。自分の弟。 ・之:〔し;zhi1○〕ゆく。行く。唐・王維には『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」 とあり、唐・李白に『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』「故人西辭黄鶴樓」とある。 ・鄱陽:〔はやう;Po2yang2○○〕鄱陽。蠡湖(現・鄱陽湖)の東岸の都市名。現・江西省・波陽市。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期57−58ページ唐「江南西道」(中国地図出版社))。 ・居:すまい。
※鄱陽寄家處:鄱陽は、(弟が)仮住まいをしているところである。 ・寄家:仮住まいする。
※自別掩柴扉:(弟と)別れてより、(わたしの家の粗末な)柴で造った戸は閉じられたままである。(弟と別れて以来、人との接触はない)。 ・自別:別れてから。別れて以来。 ・掩:とざす。 ・柴扉:柴で造ったとびら。粗末な戸。隠棲の居を暗示する語。
※故里人何在:ふるさとの人どこにいってしまったのか(静寂に満ちている)。 ・故里:〔こり;gu4li3●●〕ふるさと。≒故郷。蛇足になるが、両者(故里、故郷)は同義であるが語感が異なるほかに、前者「故里」は●●で詩中「●●」(「◎●」)とすべきところで使い、後者「故郷」は●○で詩中「○○」(「◎○」)とすべきところで使うもの。 ・何在:どこにいったのか。
※滄波孤客稀:あおあおとした波を(行く)孤独な旅人は稀(まれ)である。 ・滄波:あおあおとした波。海波。 ・孤客:ひとりだけで旅をしている人。孤独な旅人。ここでは、弟を指そう。唐・劉禹錫の『秋風引』に「何處秋風至,蕭蕭送雁群。朝來入庭樹,孤客最先聞。」 とある。 ・稀:〔き;xi1○〕まれ。少ない。否定形に似た働きをしている。
※湖山春草遍:湖水の畔の山河には(春が訪れ、)春の草花が遍(あまね)く(繁っている)。 ・湖山:湖水の畔の山。広く山河の意。梁啓超は後者の意で使う。 ・遍:あまねくある。
※雲木夕陽微:雲や木々(に射す夕陽は)微(かす)かなものとなって、(黄昏の気配が立ち籠めている)。 ・雲木:雲や木々。李白の『紫藤樹』に「紫藤掛雲木,花蔓宜陽春。密葉隱歌鳥,香風留美人。」 とある。意味は、やや異なる。 ・微:かすかである。
※南去逢迴雁:(弟が)南方に去って行く(途上で、偶然に北方へ)帰っていくカリと。出くわすこともあろう。 ・南去:(弟が)南方に去って行く。 ・逢:(偶然に)出逢う。でくわす。前出・劉禹錫の『秋風引』の「蕭蕭送雁群。」 と、雰囲気は似る。 ・迴雁:帰っていくカリ。渡るカリ。
※應憐相背飛:(弟は南の方へと、雁は北の方へと)お互いに背け合って、反対側へ行くことは、きっと心傷むことだろう。 ・應憐:当然…であろう。まさにあわれむべきである。 ・應:〔おう;ying1○〕当然…であろう。 ・相背:お互いに背き合う。お互いに反対向く。
◎ 構成について
韻式は「AAAA」。韻脚は「扉稀微飛」で、平水韻上平五微。平仄はこの作品のもの。
○○●○●,
●●●○○。(韻)
●●○○●,
○○○●○。(韻)
○○○●●,
○●●○○。(韻)
○●○○●,
○○○●○。(韻)
2006.5.19 5.20完 2014.7.21補 |
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