巫女廟花紅似粉,
昭君村柳翠於眉。
誠知老去風情少,
見此爭無一句詩。
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峽中の石上に題す
巫女廟の花 紅きこと 粉に似て,
昭君村の柳 眉よりも 翠(みどり)なり。
誠に知る 老い去れば 風情 少けれど,
此(これ)を見れば 爭(いかで)か 一句の詩 無からん。
◎ 私感註釈 *****************
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)〜846年(會昌六年)。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。晩年仏教に帰依する。
※題峽中石上:作者が長江沿いの巫峡(四川・巫山県の東端で、湖北・巴東県に接するところ)の風情を美女と比べて詠う。第一聯は『和漢朗詠集・柳』にとられている。
※巫女廟花紅似粉:巫女廟の花の赤さは、頬紅に似て。 ・巫女廟:〔ふぢょべう;Wu1nyu3miao4○●●〕巫山の神女廟。巫山の麓に神女廟がある。 ・紅:花が赤い。 ・似:…に似ている。…の如くである。 ・粉:〔ふん;fen3●〕頬紅(ほおべに、ほほ紅)おしろい。ここは、前者の意。うす紅色。ピンク色。
※昭君村柳翠於眉:昭君村の柳の葉は、(美女の)眉よりも美しいみどり色をしている。 ・昭君村:〔せうくんそん;Zhao1jun1cun1○○○〕王昭君の生まれたところ。巫峡附近にある。 ・柳:ここでは、ヤナギの葉のことになる。 ・翠於眉:(美女の)眉よりも美しいみどり色をしている。 ・翠:みどり色。 ・於:…よりも。〔形容詞+於〕で、比較表現。杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」 に同じ。 ・眉:(美女の)まゆ。
※誠知老去風情少:年をとってくると実に風雅の趣も少なくなるものだが。 ・誠:まことに。実に。本当に。あやまりなく。確実に。 ・知:分かる。 ・老去:年をとってくる。年々年をとる。≒老來。また、死ぬ。ここは、前者の意。 ・風情:〔ふぜい、ふうじゃう;feng1qing2○○〕風雅の趣。情趣。男女の恋愛の情。風流。後世、南唐の李Uは『柳枝詞』で「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭。」と詠い、北宋・柳永は『雨霖鈴』に「寒蝉淒切,對長亭晩,驟雨初歇。キ門帳飮無緒,留戀處,蘭舟催發。執手相看涙眼,竟無語凝噎。念去去千里煙波,暮靄沈沈楚天闊。 多情自古傷離別,更那堪、冷落清秋節。今宵酒醒何處?楊柳岸、曉風殘月。此去經年,應是良辰好景虚設。便縱有千種風情,更與何人説。」と使う。 ・少:少なくなる。蛇足になるが、詩詞では否定表現表現するのがきつすぎる場合にも使う。
※見此爭無一句詩:この(美女にも勝る様子)を見れば、どうして詩の一ひねりが出てこない筈(はず)がない。 ・見此:この(様子)を見て。この(さまに)出会って。 ・爭無:どうして…が無かろうか。必ず有る。 ・爭:どうして(…か)。いかでか。反語。
◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「眉詩」で、平水韻上平四支。平仄はこの作品のもの。
○●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2006.11.8 11.9 |
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