縞素臨江誓滅胡, 雄師十萬氣呑呉。 試看天塹投鞭渡, 不信中原不姓朱。 |
師を出だして滿夷を討ち 瓜州より金陵に至る
縞素 江に臨みて 誓って胡を滅さん,
雄師 十萬 氣 呉を呑む。
試に看よ 天塹 鞭を投じて渡らば,
信ぜず 中原 朱を姓らざらんとは。
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◎ 私感訳註:
※鄭成功:明末の遺臣。幼名は福松。字は明儼。諱は森。諡は忠節。国姓爺(こくせんや)と呼ばれる。日本の平戸で鄭芝龍と田川七左衛門の娘・松との間に生まれた。日明(日本人と漢人と)の混血。漢民族の明朝の復興のため、中国南部で、また台湾に拠って(オランダ人を追い出して、)大陸反攻を繰り返し、満州民族の清朝と戦った。1624年(明・天啓四年/清・天命九年)〜1662年(清・康煕元年なお、明は前年(1661年)まであった)。なお、近松門左衛門の『国姓爺合戦』の主人公のモデルでもある。
※出師討滿夷自瓜州至金陵:漢民族の王朝である明王朝が倒された後も、明朝を復活させようとして、現・福建省に拠った唐王を奉じて、鄭成功の父・鄭芝龍と子の鄭成功は、満州民族の清朝を覆滅させるために戦う。この作品は、順治十六年(1659年)に作者が三十六歳の時、南京攻略戦の時のもの。攻略戦の行程は瓜州を進発して長江を渡って京口(鎮江)に至り、そこから長江を遡って南京を攻めたのだろう。 *この詩の部分部分が毛沢東の詩詞に取り込まれている。両宋・辛棄疾の『水調歌頭』舟次揚洲和楊濟翁、周顯先韻「落日塞塵起,胡騎獵C秋。漢家組練十萬,列艦聳高樓。誰道投鞭飛渡,憶昔鳴髇血汚,風雨佛狸愁。季子正年少,匹馬K貂裘。今老矣,掻白首,過揚州。倦游欲去江上,手種橘千頭。二客東南名勝,萬卷詩書事業,嘗試與君謀。莫射南山虎,直覓富民侯。」の影響を受けている。 ・出師:〔すゐし;chui1shi1●○〕軍隊を出動させる。出兵する。 ・討:〔たう;tao3●〕討(う)つ。罪を言い挙げて、戦で退治する。 ・滿夷:異民族である満洲民族。清王朝は滿洲民族の王朝。 ・自:…より。 ・瓜州:〔くゎしう;Gua1zhou1○○〕長江下流の揚州、揚子附近の町。長江の渡し場(瓜州⇔京口(鎮江))として栄えた。80キロメートル上流(西南西)に金陵がある。 ・金陵:現・南京。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)54ページ「唐 淮南道」がある。この南京攻略戦の行程は瓜州を進発して長江を渡って京口(鎮江)に至り、そこから長江を遡って南京を攻めたのがよく分かる。
※縞素臨江誓滅胡:喪服を着て渡河前に(川の神に)誓って異民族を討ち滅ぼすことを(誓う)。 ・縞素:〔かうそ;gao3su4●●〕白い衣服。喪服。 ・臨江:川辺に臨んで。唐・王勃の『滕王閣』「滕王高閣臨江渚,珮玉鳴鸞罷歌舞。畫棟朝飛南浦雲,珠簾暮捲西山雨。濶_潭影日悠悠,物換星移幾度秋。閣中帝子今何在,檻外長江空自流。」や、 ・誓:誓って。この語以下の「滅胡」を誓う。 ・滅:あとかたもなくなり、消滅する。ほろびる。 ・胡:えびす。異民族。ここでは、満州民族及びその清王朝を指している。
※雄師十萬氣呑呉:雄々しい軍隊・十万の気勢は、江蘇省と浙江省北部をのみくだした。 ・雄師:雄々しい軍隊。 ・十萬:前出・両宋・辛棄疾の『水調歌頭』「漢家組練十萬,列艦聳高樓。誰道投鞭飛渡,憶昔鳴?血汚,風雨佛狸愁。」にもある。 ・氣:意気。気勢。 ・呑:〔どん(とん);tun1〕まるのみにする。のみくだす。とりこむ。滅ぼす。 ・呉:長江下流部分の両岸の地域。現・江蘇省と浙江省北部(銭塘江ラインまで)。
※試看天塹投鞭渡:ちょっと見ていたまえ、長江を強大な我が軍が渡れば。 ・試看:ちょっと見ていたまえ。ごらんなさい。胡世將の『江月』に「~州沈陸,問誰是、一范一韓人物。北望長安應不見,抛卻關西半壁。塞馬晨嘶,胡笳夕引,得頭如雪。三秦往事,只數漢家三傑。 試看百二山河,奈君門萬里,六師不發。外何人迴首處,鐵騎千群都滅。拜將臺欹,懷賢閣杳,空指衝冠髮。欄干拍遍,獨對中天明月。」や、南宋・陸游の『秋興』に「成都城中秋夜長,燈籠蝋紙明空堂。高梧月白繞飛鵲,衰草露濕啼寒?。堂上書生讀書罷,欲眠未眠偏斷腸。起行百匝幾歎息,一夕埼寳ャ秋霜。中原日月用胡暦,幽州老酋著柘黄。榮河温洛底處所,可使長作旃裘ク。百金戰袍G鶻盤,三尺劍鋒霜雪寒。一朝出塞君試看,旦發寶鷄暮長安。」や、後世、毛沢東の『念奴嬌』鳥兒問答「鯤鵬展翅,九萬里,翻動扶搖羊角。背負天朝下看,キ是人間城郭。炮火連天,彈痕遍地,嚇倒蓬間雀。怎麼得了,呀我要飛躍。 借問君去何方,雀兒答道:有仙山瓊閣。不見前年秋月朗,訂了三家條約。還有喫的,土豆燒熟了,再加牛肉。不須放屁,試看天地翻覆。」 とある。 ・天塹:〔てんざん;tian1qian4○●〕長江。天然の要害。 ・投鞭:兵力の多くて強いことを謂う。前出・両宋・辛棄疾の『水調歌頭』「漢家組練十萬,列艦聳高樓。誰道投鞭飛渡,憶昔鳴?血汚,風雨佛狸愁。」、『晋書・杜預伝』に「以吾之衆,投鞭於江,足斷其流。」現代語でも成語として、“投鞭斷其流”があり、意味は同じで、「兵士の持っている鞭を川に投げると、そのために流れが止まる」ことで、「兵力の多くて強いこと」をいう。 ・渡:渡河する。
※不信中原不姓朱:(たちまちのうちに)中国全土の国姓が朱でないということが、信じられなく(してやるから)。 *「不信中原不姓朱」の節奏は「不信〔中原不姓朱〕」となる。 ・不信:信じられない。 ・中原:中国の中央部の意で、漢民族の故地。黄河中流域の平原地帯をいう。河南省、山東省西部(東部は嘗て“東夷”)、河北省と山西省の南部、陝西省東部。 ・不姓:…と(姓を)名乗らない。 ・姓:〔せい;xing4●〕姓とする。姓をなのる。動詞。 ・朱:明(みん)朝の皇帝の姓。明の太祖は。朱元璋。鄭成功はその功績に対して、唐王・朱聿鍵より皇室の姓(国姓)である「朱」を賜ったが、鄭成功は畏れ多いこととして辞退した。このことにより、鄭成功は国姓爺(皇室の姓を賜った旦那様)と呼ばれるようになった、その姓。
◎ 構成について
2007.11.23 11.24 |